「おい泰紀。いつまでメソメソしてるんだ、鬱陶しい。失ったものは二度と戻ってこないんだから前を向いて生きろ」
亀世は十分前から膝を抱えてしくしくと肩を揺らしている泰紀にため息を吐いた。
あまりにも横暴な台詞に泰紀の涙が引っ込む。
「あんたが無理やり奪ったんだろ!? お、お、俺のファーストキスが……!」
思い出したらまた泣けてきたし吐き気も込み上げてきた。おえ、と口元を抑えながら蹲ると鶴吉がケケケと笑いながら背中をさする。
「忘れられないファーストキスになったな?」
「今すぐ忘れてぇよ……」
げんなりした顔でそう言えば双子のツボにハマったのか、2人はそっくりな笑い方でげらげらと笑い転げる。
唇を突き出した文車妖妃の前で亀世に無理やり背を押された泰紀は、抗うすべもなくそのまま文車妖妃の唇へ吸い込まれるように倒れ込んだ。そしてぶちゅうと、脳髄まで吸い取られるのかと思うほど熱烈な口付けを頂戴し今に至る。
こんなことならさっさと恵理と済ませておけばよかった、とデートの度に機会を伺っては日和ってしまった自分を責める。
それ以上に、この双子には人の心がないのか。
その時、棚の影から機嫌よく現れた文車妖妃は「ようやっと見つけたわ」と黒い綴込表紙の冊子を掲げた。
「これが空亡大禍事変における、神母坂禄輪の報告書だ」
「空亡大禍事変?」
鼻を啜りながら聞き返す。



