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 放課後、ちょっと、いや大分、律月に言い過ぎたなあって思って、スマホで律月の名前をタップしてはまたトップ画に戻して「はあって」ため息をつく。昼休みが終わってからずっとこんな感じ。また律月との個チャを出す。やり取りは昨日の夜で終わったままだ。

(謝る? なんかノンデリなこと言ってごめんっていう? 本当はさ、俺、お前と来週もこれからもずっと、一緒にお昼食べたいって思ってるって……。言っていいのかな……)

 教室から逃げて、体育館裏から逃げたら、僕はずっと逃げっぱなしのまんまだ。もう昼休みに学校の中に僕の居場所なんてなくなる。それに大事な人と一緒にいられない学校生活なんて意味あるのかなって、むなしい気分のなま力なくリュックを背負った。

(あんなこと言ったからもう、律月月曜日に体育館裏、こないかもな……)

 やっぱ謝ろう。来週から、外よりはまだ温かい空き教室探して、一緒にご飯食べよう。

 そう言いたくて、スマホをもう一度取り出したら、後ろから声をかけられた。

「律月、ちょっといいか?」
「敦也……」

 スマホに気を取られて気づけなかったけど、何だか思いつめたような顔をした敦也がいつの間にか隣に立ってた。だけど敦也越しの向こうに苦手な女子グループがいて、敦也の事が好きな女の子が怖い顔でこっちを睨みつけてきた。

(律月に来週お昼一緒に食べるの断られたらさ、流石にもうぼっちで昼食べるのヤダ。そしたら来週から教室戻ることになるかもだし……。今、女子を刺激したくない……)

「急いでるから」
「歩睦」

 早く律月に連絡が取りたい。昼にいったこと謝りたい。
 敦也の横をすり抜けて、足早に教室を出たのに、何故だか後ろから追いかけてこられた。昇降口までやってきて、靴箱からスニーカーを出して踵を踏みつけたまま外に飛び出す。玄関のガラス戸を越え、短い階段を駆け下りながら校門へ向かっていくのに、まだまだ敦也が付いてくる。
 
「歩睦、待ってくれ」

 もう一度呼びかけられて、追い越され気味に手首を掴まれた。仕方なく僕は立ち止まる。

(こんな強引なことする奴じゃないのに……)

 ただならぬ様子の敦也は荷物も持っていない。ちょっと怖いくらいに真剣な顔でこっちを見てくるから、僕は何かこいつを怒らせるようなことをしたかと心の中で首をひねった。

「敦也部活行くんでしょ? なんで追いかけて来たの?」
「話があるんだ」
「話?」
「お前、最近俺の事避けてるだろ」

(避けてる……ってことになるのか?)

 僕的には色々気を使ったつもりだったんだけどな。敦也だって『可愛い恋人が欲しい』って前に言ってたし、だったら敦也の為にも僕とべったりじゃない方がいいんじゃないかってそう思ったから、これはいいことなんだって思い込むようにしてた。だけどそれが敦也の事を傷つけているなんて考えたこともなかった。

「避けてる、わけじゃないけど……」
「じゃあなんで教室で一緒に昼を食べない?」
「それは……。前に話しただろ? 去年のクラスメイトと一緒にお昼食べてるって……」
 
 去年のクラスメイトの女子達とお昼を食べてるって、一応敦也にはそういう言い訳をしていたんだ。苦肉の策の口から出た言い訳だったんだけど……。

「昼休み。別のクラスの友達と食べるって言ってたけど、俺、お前の事探して全クラス見に行ったけどお前はどこにもいなかった」
「っ!」
「去年お前が仲が良かった女子にも聞いた回ったけど、来てないって……。お前昼休み、どこに行ってるんだ?」

 まさか敦也がそんな行動に出ているとは思わなかった。胸がドクンってなるほどびっくりして、手首を握られている方の腕を引こうとしたら、させまいって感じに逆に敦也が僕のリュックを背負った背中まで左手を回した。僕はそのまま、がっつり敦也に掴まえられてしまった。
 体格に差があるからこんな風にされたらもう逃げ出せなくて、僕は悩ましく眉根を寄せた敦也の顔を、情けない顔で見上げることしかできなくなってしまった。

「そんなに俺と一緒にいるのが嫌か? 俺、お前が気に障るようなこと何かした?」
「違う、違うけど……」
「じゃあなんで?」
「……」

「ちゃんと話してくれ。お前何か隠してるのか?」

(今敦也に本当の事を言う? 敦也と二人なら教室で孤立しても、平気? 敦也を巻き込むことになるけど……。いや、それは良くないか。女子との約束は守らないと……。クラスでまた何を言われるか分からなくて怖い。情けないけど、怖いって一度思ってしまったから中々苦手感を拭えない。いっそあの女子が告白して敦也にあっさりフラれてくれたら、教室に戻って敦也とまたお昼を食べられるのかもしれないけど……)

 そうずるいことを思ったのに、頭の中に最初に会った日の、律月のちょっぴり寂しそうな笑顔が浮かんできた。

「歩睦。昼休み、お前がどこでどうしているのか、心配でたまらないんだ。教室じゃなければ、外なのか? 寒くなってきたのに……、歩睦は痩せてて風邪ひきやすくて、寒いところにいたらすぐ唇青くなるだろ。毎シーズン、インフルエンザにかかって苦しんでたし」

 流石、付き合いが長い。敦也が今も外の風で冷たくなった僕の頬を掌でなぞる。

「教室戻って、俺と昼飯を食べよう。な?」

 親友からそこまで言われた。でも僕の気持ちはもう決まってた。

(律月に連絡して、僕が作った新しい居場所を気に入ってくれた、あいつを大事にしなきゃ。大事な人と一緒にいられる、お昼休みを守るんだ)

「敦也……、僕ね。僕今まで……」

 お昼、楽しく食べてたよ。温めてくれる人と一緒だったんだ。
 総いおうと思った瞬間、後ろから僕の胸に長い腕がするりとかかった。

「この人もう、俺と毎日昼飯食べるって約束してるんで、無理です」

 今度は後ろから、広い腕の中に囲われた。後ろからだってわかる、強引な仕草と容姿に似合った爽やかな香りに、僕は慌てて首を反らして後ろを見上げた。

「律月! 何やってんの?!」
「校門のとこで、あんたが出てくんの待ってたんだよ。さっき話しが途中だっただろ? あんな中途半端に喧嘩別れみたいになってさ。また来週なんて無理だろ。俺、お前と離れたくない」
「律月……」

 必死な声やしがみ付いてくるみたいな仕草が、全部律月の気持ちを僕に届けていた。

「……歩睦。こいつは?」

 聞いたこともないような敦也のすごく低い訝し気な声に、僕はでかい二人の真ん中に挟まれたまま震えあがった。

「ちょっと、二人とも! みんな見てる! め、目立ってるから離してって!」

 敦也は手首を放してくれないまま、膝を折れば当たるぐらいの位置にいるし、後ろからは律月が長い腕をゆったりと僕の胸と腰に回してバックハグされている。

「離せって」
「「嫌だ」」

 もう1回喚いたけど、どっちも放してくれないどころか、四本の腕がさらに強く僕に絡みついた。
 ああ、僕はきっと、ぱっと見は校内随一のイケメン二人から力づくで奪い合われているようなとんでもない状態になってる。
 
「歩陸、もう限界だ。戻ってきてくれ。お前がいないと毎日つまらない。癒しがない!」
「敦也、なにいって……」
「お願いだ」

 一番の親友のお願い顔は流石に無下にできない。無下にはできないんだけど、後ろの後輩の事も、放っておけないんだ。

「敦也……」

 身体が前に出かけたところを尚も強引な律月の腕に阻まれ、ぐっと後ろに引き戻された。

「アユ先輩のこと、これだけ放って置いてさ。もうあんたの出る幕じゃないし。こんな面白くて可愛い人、簡単に手放しちゃダメだろ」
「ええ? 律月、なにいってんの?」
「この人、もう俺のだし」

 後ろで後輩の律月がイケボでせせら笑いながら、ほとんど僕の事を抱きかかえるぐらいの強さでほとんど足が浮くぐらいの強さで抱き抱えられた。

「俺は、歩陸を手放したつもりなんてない」
「はあ? あんな寂しい思いさせて何言ってんの? この人もう、俺の傍にいさせるんで、あんたはすっこんでろよ」
「お前に命令される筋合いはない。なあ、歩陸。お前の気持ちはどうなんだ?」
「え……。僕は……」
「どっちと昼休み、一緒にいるか、応えて」
「どっちとって……」
「アユ先輩が、どうして教室にいられなくなったか。俺は理由を知らないし、言いたくないなら聞かない。だけどそれと先輩が俺と一緒にいられない理由の根っこが全部似た理由なんだとしたら、安心してよ。俺は先輩の傍を離れない。あんたの事、ちゃんと護るから。寒い場所で一人ぼっちにするなんて、そんな寂しい思いを絶対させない」
「律月……」

(僕の漠然とした不安みたいなやつ、律月にはなんでかなんか伝わってたんだ……)
 
 多分、察しがいい律月は、色々感づいていたんだろうなって思う。だけどただ何も聞かずに僕を温めて、元気づけてくれることだけを頑張ってくれたんだ。

(ありがとう。律月。律月がいてくれると、勇気が出る。邪魔者扱いされた僕を大事にしてくれる人がいるってだけでも、どんなに心強かったか分かんないよ)

 口に出すにはギャラリーが多すぎる。二人きりの時にちゃんと言いたい。
 今はただ、前に回った律月の手に感謝を込めて手を重ねたら、するっと手を抜かれて逆に上から包まれた。

「寒くなったら空き教室に入ればいい。だからこれからもさ、昼休み、二人っきりで一緒にいようよ。いいでしょ? アユ先輩」
「僕もそう思ってたよ。……ありがと。律月」

 だんだん校舎から出てきた人が増えてきて、あっちにクラスの女子までも敦也を追いかけてきたみたいだ。もちろんまた、般若みたいな顔つきでこっちを見てる。
 察しがいい律月がそれに気が付いたみたいだ。僕の視界を塞いで守るみたいに、頭を腕の中に抱えこまれた。

「アユ先輩、クラスでなんかあったんだろ? あんた絡みじゃねぇの?」 
「歩睦……、そうなのか?」
「え……、あ……」

 こんな時うまく誤魔化せない、ぱっといい答えが浮かばなくて僕のバカ野郎って思ってたら、ざわつく嫌な雰囲気を打ち破るように、明るくて力強い声が響いた。

「あー! アユ君だあ。なにしてるの?」

 別の女子グループを引きつれて、遠巻きにしていた人たちを割るように前に躍り出てきたのは、去年はクラスメイトだった友達の麗良だ。同中出身だから、敦也と同じぐらい僕との付き合いが長い。ダンス部所属で学年一のSNSのフォロワー数を誇る超絶美少女だ。
 そんな彼女が肩で風を切るようにしてダンス部の友達を引き連れ、こっちに向かって来たから、クラスの女子が怯んだみたいに一歩後ろに下がった。

「なにって、この状態見て……」

 分かるわけないだろお!!! って自分に突っ込みを入れたんだけど、あっさりと彼女が大笑いした。

「あはは、アユ君! 圧倒的姫! ヤバイ顔面男子二人に取り合われてるう! 流石サッカー部の姫ポジ!」 
「おい、そのあだ名広めないで!」  

「姫、姫だって」ってさざ波みたいに周りにざわざわ声が広がっていく。止めてくれ、高校ではサッカー部には入らなかったし、そろそろ少しは男子扱いしてもらいたいんだから。

「姫かあ。確かに。アユ先輩は俺にとっては不遇なお姫様って感じ。俺が来たからもう安心してね。お姫様」
「り、律月、何言ってんの? 頭湧いたの?」
「あー、きた。その毒舌痺れるなあ」
「歩睦、なんだこの生意気な一年は。こんな奴と昼メシ一緒に食べているのか? 俺の事を教室に置き去りにして」
「嫉妬ですか? 醜いですねえ? 先輩」
「なんだと?!」
「煽るな、律月。敦也もこいつの言うこと間に受けるな!」
「あはは。なんなの、あんたたち、面白すぎ」

 じたばたと暴れたら、麗良がすぐ傍までやってきた。僕は学校上位カーストの三人に囲われて顔面の圧でくらくらしてしまいそうだ。
 麗良が綺麗に巻いた長い髪をかき上げて、にっこり微笑む。

「なあに? 三角関係? うけるんだけど」
「うけない!」
「だって敦也ってばすごい顔で歩睦のこと、私のとこまで探しに来たんだよ? 敦也は昔から歩睦の事しか興味ないんだし。この忠犬君、教室においてったら可哀そうでしょ?」

 なんてズバズバ言いながら僕の額を綺麗に手入れされた爪でくいっと小突いた。

「痛いよ、麗良」
「こっちの一年はあれだあ。うちのダンス部の後輩ふったやつだあ」
「世間狭すぎてこわっ」

 まさかあの律月を張り倒した女子が麗良の知り合いだったとは……。

「そっか、そういうことかあ。なんかわかっちゃった」
「何がそういうことなんだよ?」
「あんた他に好きな子がいたんだったら、そういう風に言いなさいよ。ああいう言い方で振るのは良くないよ」

(女子こわっ。何もかも知られてる……)

 そういって結構すごい圧で麗良に上目遣いに睨みつけられたのに、律月は柳を手で押したみたいにのらりくらりとした声で、「そう思ってもらっていいけど。俺、好きな子いるから」ってあっさり答えてた。

(律月の、好きな子……)

 つき、ちっさい針みたいなやつが胸の真ん中に刺さったみたい。

「律月さあ。好きな子いるならその子とお昼食べなよ。お前が告ればきっと大丈夫だって」

 もうなんか抵抗するのも疲れて、律月の胸に全体重を任せたのに、びくともしない。ほんと、生意気な奴だ。こうして律月とわちゃわちゃしてられるのも、今日が最後かと思ったら、なんだか寂しくて涙が出そう。

(ああ、やっぱり、僕律月の事すごく気に入ってたんだな)

「律月。お前はいい奴だから、きっとその子もお前の中身もひっくるめて、好きになってくれると思うよ。あんまり好きな子苛めたりとか、変なことしちゃ駄目だぞ。大事にするんだぞ」
「はい。先輩の言う通り、そうします」

 なんだか弾んだいい返事。いいよ。律月。いい昼休みを過ごして。ボンボヤージュじゃなくて、こういう時何ていえばいいんだろ。良いランチタイムを!とか、言えばいいのかな。そんな単語なさそうだけど。

「そっか、うん。それがいいよ」

 なんだか胸がまたチリチリって痛んだんだ。だけど、律月が寂しい顔しなくてすむならそれでいいのかなって思ったりした。

「そんな寂しそうな顔したらさ、ぐってくる。ほんと、この人可愛いよな。これ、誰がどう見ても脈ありって思うだろ? 違います?」

 律月が言った言葉は誰に向けてなのか一瞬分からなくて、顔を上げたら敦也が哀しそうな顔で僕の顔を見つめてた。

「これからも俺と昼飯一緒に食べてくださいね。アユ先輩。大好きです」

 そう言われて頬に柔らかなものがかすっていった後、周囲でどでかい悲鳴がクラッカーを一斉に鳴らしたみたいに沸き起こった。
 一瞬何が起こったか本当に分からなくて、だけどすっと屈んでいた律月の顔が離れていったのを見て、ああ、頬っぺたに律月がキスをしたんだって、分かったらもう顔が熱くて熱くて堪らなくなった。

「お、お前! ひ、人前でチューとか何してくれてんの?!」
「だって、先輩が俺の告白OKしてくれたってことでしょ? さっき『お前が告ればきっと大丈夫』っていったから」
「ええ? 昼は好きな人と……ってええ? そういうこと?」

 頭の中が大混乱、敦也の手が手首をすっと離れた。

「これからも二人でお昼食べようね」
「あ、うん……。よろしくお願い、します」

 あまりにも恥かしくてちっさい声で答えたけど、これってもしかして、告白だったってこと? だ、大好きって言ってたような? なんか頭がふわふわして、わけわかんなくなっちゃった。
 周りはすごく騒いでいるし、今更「今告りましたか?」なんて聞けなくて。僕いつの間にか、生意気でマメで、溺愛してくる、彼氏が出来ちゃったみたいだ。
 
 そんなこんなで僕のぼっち昼メシ生活はおしまい。

 だけどさ。体育館裏はあの後押しかけてきた麗良のグループで賑やかになってしまって、律月と僕だけの秘密の場所じゃなくなった。何と敦也もやってきて、一緒に食べたい人みんなでお昼を食べる。
 クラスの女子も何人か、人気者の麗良と仲良くなりたくてこっちに来てるけど、敦也の事が好きだった子たちは興味がなくなったんだか、敦也と僕に絡んでこなくなった、らしい。
 まあ、麗良の圧が怖いだけなのかもだけど。

 僕はレジャーシートの上、両側に律月と敦也に挟まれて、なんか二人とも僕に寄ってくるから狭いんだけどさ。まあ寒い冬にはぬくぬくできるから、まあいっかな。後輩兼好きピと親友のお陰で、毎日昼休みがハッピーだ。

「歩睦、次の日曜は俺と出かけるんだよな?」 
「うん」

 敦也と買い物に行くのは別に昔からやってたことだし。僕は素直に頷いた。

「え? アユ先輩、なんでこいつと出かけんの? こいつと出かけるくらいなら、俺とラブラブデートしようよ」
「えー。でも。律月、今週の日曜日、用事あるって言ってただろ? 僕ちょっと買いたいものあるし」
「だけど、ダメだろ。こいつと二人とか……」

 僕がなんで?って小首を傾げたら、「だってこいつ……」って言いかけてから、ふふんって感じに笑った敦也を見て律月がぐっと黙った。

「俺と歩睦は親友同士だからなあ。普通にこれからも出かけるよな?」
「あ、うん。普通に、買い物だよ。買い物」
「こっの、鈍感ぼっちが! そいつ、絶対お前のこと……」
「え、なに?」
「心の狭いやつと付き合っていると苦労するぞ、歩睦。お前には昔からお前の事何でも知ってる奴の方がいいんじゃないかな?」
「あたしとかあ?」
 
 なんて麗良がちゃちゃを入れてきたら、律月と敦也が同時に「「それはない」」ってはもって、顔を見合わせてから分かりやすく、ぷいっと顔を背けてた。仲がいいんだか悪いんだか分からない二人の掛け合い、僕も見ていて嫌いじゃない。

「クシュ」

 冷たい風が吹いて、僕がくしゃみをしたら、左から敦也が僕の右肩を引き寄せて負けじと律月が右から僕の腰を引き寄せてる。

「離せよ。俺のアユ先輩だぞ。俺が温めるの」
「別に友達同士、肩ぐらい組むぞ」

 まるでおしくらまんじゅうみたいに、両側から引っ張り合われて、なんか楽しくなってきた。

「あはは。ぼっちじゃない冬は暖かいね」
「あー。ほんと。アユ君たち見てると飽きないわ」

 麗良と女子達が元気な笑い声を立てた。こういうの、悪くない。体育館裏は静かじゃなくなったけど、ボッチでもなくなった。
 今日もいい天気。ブランケットで僕をぐるぐる巻きにした過保護な恋人の腕に抱きかかえられながら、僕は青空を見上げてから目を瞑り、瞼越しに降り注ぐ日差しを心地よく思った。
                                    終