俺は千隼と一緒に登校しているが、いつも別れるのは階段の前だ。1年生の教室は1階にあり、2年生は2階にあるため、俺は階段を上らなければならない。その前で別れている。
「じゃあな、千隼」
「うん。怜くん。また帰りに」
「おー」
当然のように登下校を共にしているし、今日の約束もした。人気者の千隼を独占している状況。このままでも良いのだろうか、と考えると共に、少し嬉しくなってしまう。
そうは思うものの、そろそろ弟離れをしなければならないだろうか。千隼なら俺以外にも共に登校したがる人はたくさんいるだろうから。しかし、止めるタイミングが分からない。どのタイミングが良いか。そんなことを考えながら教室に入ると、それに気がついたクラスの女子が声をかけてきた。
「奥村くん、おはよう」
「おはよう」
「今日も千隼くんと登校?」
「まあ、うん」
「えー、いいねー」
きゃらきゃらと華やかな声で笑っているクラスの女子達を見ながら、俺は思わず苦笑した。
クラスメイトにも当然のように知れ渡っているのはなぜなのか。そして、やはり千隼は人気なのだろう。千隼のことがきっかけで声をかけてきたのだから。千隼がいなければ、俺に話しかける女子は少ないだろう。千隼のおかげでクラスでの交友関係も上手くいっていることに、心の中で感謝をしながら、鞄から教科書を取り出した。
「おはよう、怜。相変わらず人気だなー」
後ろから友人の律音に声をかけられ、振り向いた。にやにやとした笑みを見ながらそう言ってきたから、本気ではなく揶揄っているのだろう。薄らと笑みを浮かべて返事をした。
「人気なのは俺じゃなくて千隼だろう?」
「……まあ、そういうことにしておいてやるよ」
「なんだよ」
引っかかる言い方に眉を寄せたが、相変わらず律音は笑っている。よく分からないが、律音はそれ以上の説明をする気はなさそうだ。聞き出すのを諦め、再び鞄の中から教材を机の中に移し始めながら、俺は律音に尋ねた。
「そんなことより、宿題はやったのか?」
「え? 宿題あった?」
「3限目の数学でプリントが回収されるはずだ」
「まじ? やんないと。サンキュー」
慌ただしく自分の席へと戻っていった律音を見ながら、自分も記入忘れがないかを確認するためにプリントの確認を始めた。
そんな中、教室のどこかから声が聞こえた気がした。
「奥村くんって、千隼くんと……」
「でも、律音くんとも良くない!? どっちも……」
千隼と律音の名前が聞こえた気がする。まあ、2人とも高校で人気らしいから、視線を集めているのだろう。
周りの声を聞きながら、自分の数学のプリントを眺めていたが、プリントに解き忘れを見つけたため、慌てて目の前のプリントに意識を戻した。
◆
昼休みにご飯を食べながらふと窓の外を見ると、グラウンドで千隼がバスケをしているのが見えた。もう食べ終わったのか。授業中に早食いをしたのか、あるいはもう食べ終わったのか。
ぶんぶんとこちらに手を振ってくる姿は、まるで子犬のようだ。くすりと笑みを零して、手を振り返した。
「また後輩くんか?」
「ああ、うん」
前の席に座ってご飯を食べていた律音を見て、首を傾げる。また、と言われるほどの頻度だろうか。
すると、律音が呆れたような顔で言ってきた。
「いや、お前。自覚ないのか? 一昨日も同じことしてたぞ?」
「そうだったか?」
律音の言葉で考える。言われてみれば、確かに。窓の外できらきらとした笑顔でバスケットボールを追いかけている千隼を見ながら、曖昧に頷いた。
「確かにそうだったかも」
千隼が投げたバスケットボールが、綺麗な放物線を描いて、ゴールネットを揺らす。あ、シュートが決まった。
友達と嬉しそうにしている千隼を見て、頬が緩んできた。楽しそうな幼馴染を見ていると、自分まで楽しい気持ちになってくる。
適当に律音と話をしながらも、千隼から目を逸らすことができなかった。太陽に愛されているかのように、千隼のいる場所だけが輝いて見える。
スポーツが万能で人気者の千隼との距離は、グラウンドと2年生の教室くらい離れているのだろう。
やはり、少し寂しい。
「後輩くんの方がお前に懐いているように見えるが、実際は逆なのか?」
律音に言われて、俺はやっと前に意識を戻した。目の前の弁当箱を見ると全く減っていないことに気がつき、俺は卵焼きを口に放り込んだ。
「さあ、どうだろうな」
「それで誤魔化そうとするのは無理があるだろ」
「はは」
乾いた笑みを零して、次はプチトマトを口へと運ぶ。こんなペースで食べていたら、授業に間に合わなくなる。そんな言い訳を思い浮かべながら、俺は食べるスピードを上げた。
「じゃあな、千隼」
「うん。怜くん。また帰りに」
「おー」
当然のように登下校を共にしているし、今日の約束もした。人気者の千隼を独占している状況。このままでも良いのだろうか、と考えると共に、少し嬉しくなってしまう。
そうは思うものの、そろそろ弟離れをしなければならないだろうか。千隼なら俺以外にも共に登校したがる人はたくさんいるだろうから。しかし、止めるタイミングが分からない。どのタイミングが良いか。そんなことを考えながら教室に入ると、それに気がついたクラスの女子が声をかけてきた。
「奥村くん、おはよう」
「おはよう」
「今日も千隼くんと登校?」
「まあ、うん」
「えー、いいねー」
きゃらきゃらと華やかな声で笑っているクラスの女子達を見ながら、俺は思わず苦笑した。
クラスメイトにも当然のように知れ渡っているのはなぜなのか。そして、やはり千隼は人気なのだろう。千隼のことがきっかけで声をかけてきたのだから。千隼がいなければ、俺に話しかける女子は少ないだろう。千隼のおかげでクラスでの交友関係も上手くいっていることに、心の中で感謝をしながら、鞄から教科書を取り出した。
「おはよう、怜。相変わらず人気だなー」
後ろから友人の律音に声をかけられ、振り向いた。にやにやとした笑みを見ながらそう言ってきたから、本気ではなく揶揄っているのだろう。薄らと笑みを浮かべて返事をした。
「人気なのは俺じゃなくて千隼だろう?」
「……まあ、そういうことにしておいてやるよ」
「なんだよ」
引っかかる言い方に眉を寄せたが、相変わらず律音は笑っている。よく分からないが、律音はそれ以上の説明をする気はなさそうだ。聞き出すのを諦め、再び鞄の中から教材を机の中に移し始めながら、俺は律音に尋ねた。
「そんなことより、宿題はやったのか?」
「え? 宿題あった?」
「3限目の数学でプリントが回収されるはずだ」
「まじ? やんないと。サンキュー」
慌ただしく自分の席へと戻っていった律音を見ながら、自分も記入忘れがないかを確認するためにプリントの確認を始めた。
そんな中、教室のどこかから声が聞こえた気がした。
「奥村くんって、千隼くんと……」
「でも、律音くんとも良くない!? どっちも……」
千隼と律音の名前が聞こえた気がする。まあ、2人とも高校で人気らしいから、視線を集めているのだろう。
周りの声を聞きながら、自分の数学のプリントを眺めていたが、プリントに解き忘れを見つけたため、慌てて目の前のプリントに意識を戻した。
◆
昼休みにご飯を食べながらふと窓の外を見ると、グラウンドで千隼がバスケをしているのが見えた。もう食べ終わったのか。授業中に早食いをしたのか、あるいはもう食べ終わったのか。
ぶんぶんとこちらに手を振ってくる姿は、まるで子犬のようだ。くすりと笑みを零して、手を振り返した。
「また後輩くんか?」
「ああ、うん」
前の席に座ってご飯を食べていた律音を見て、首を傾げる。また、と言われるほどの頻度だろうか。
すると、律音が呆れたような顔で言ってきた。
「いや、お前。自覚ないのか? 一昨日も同じことしてたぞ?」
「そうだったか?」
律音の言葉で考える。言われてみれば、確かに。窓の外できらきらとした笑顔でバスケットボールを追いかけている千隼を見ながら、曖昧に頷いた。
「確かにそうだったかも」
千隼が投げたバスケットボールが、綺麗な放物線を描いて、ゴールネットを揺らす。あ、シュートが決まった。
友達と嬉しそうにしている千隼を見て、頬が緩んできた。楽しそうな幼馴染を見ていると、自分まで楽しい気持ちになってくる。
適当に律音と話をしながらも、千隼から目を逸らすことができなかった。太陽に愛されているかのように、千隼のいる場所だけが輝いて見える。
スポーツが万能で人気者の千隼との距離は、グラウンドと2年生の教室くらい離れているのだろう。
やはり、少し寂しい。
「後輩くんの方がお前に懐いているように見えるが、実際は逆なのか?」
律音に言われて、俺はやっと前に意識を戻した。目の前の弁当箱を見ると全く減っていないことに気がつき、俺は卵焼きを口に放り込んだ。
「さあ、どうだろうな」
「それで誤魔化そうとするのは無理があるだろ」
「はは」
乾いた笑みを零して、次はプチトマトを口へと運ぶ。こんなペースで食べていたら、授業に間に合わなくなる。そんな言い訳を思い浮かべながら、俺は食べるスピードを上げた。

