「アサ、大丈夫か?」

 塹壕に戻ると、ユキノが出迎えてくれた。
 いまだ青白い照明弾が周囲を照らしている。みな、夢から覚めたように、銃を手に取り、それぞれの配置に散らばってゆく。

 わかっていたことだ。戦争が終わるわけじゃないって。
 クリスマス休戦……その名の通り、一瞬の平和に過ぎないって。

 それでも、たとえ泡沫の夢であっても。私たちは確かにお互いをわかり合って、笑い合って、触れ合って。

「ね、コムギ。これが終わりじゃない。そうだよね」

 にゃん。とコムギは小さく鳴いた。
 首輪の鈴が揺れる。私は、リクが入れてくれたメッセージを取り出した。

「これ……」


 Let everything happen to you:
 Beauty and terror.
 Just keep going.
 No feeling is final.


 あの子がくれた。英語の詩。
 それと同じものだった。
 意味は────

「生きていこう。きっと、絶望が最後ではないから……ね、コムギ」

 そっとコムギを抱きしめる。
 私の腰のホルダーの中では、オルゴールが。きよしこの夜が、いまだ流れていた。
 この世界に生きる私を、祝福するかのように。