戦場の猫郵便


 ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……

 真っ暗だ。
 さっきまで、あんなにも光に満ちた場所にいたのに。
 おまけにゴロゴロと怠け者のカミナリみたいな音がする。
 でも、この感じは覚えがある。そう、これは────

「コムギ……」

 ゆっくりと目を開けると、あったかい灰色の毛玉が覆い被さっていた。
 それに反して地面は氷のように冷たい。
 塹壕だ。私はどうやら本当に生きていたようだ。

「アサ……!よかった。アサぁ……!」

 ユキノが私を抱き起こし、痛いくらいに抱きしめた。
 続いて、いつものメンバーたちが駆け寄ってくる。

「ねぇ、みんな!アサが起きたよ!」
「はぁ……頭撃たれたって聞いてたから」
「ヘルメットに感謝だね」

 誰かが、私に件の穴の空いたヘルメットを被してくれた。
 ズレて視界が覆われたので、位置を直すついでに空を見上げると、もう夜になっていた。

「夜……え、攻撃は?」

 ユキノが小銃を手にしている。それは私の銃だった。

「まだだよ。でも着剣しろってさ。つーことは間も無くってことだ。ほら、アサもこれ持って。突撃に参加しなきゃ、督戦隊に殺されちまうから」

 そうだ。戦わないと。だって私は────いや、

「……違う」

 一旦は銃に伸ばした手を、私は押し留めた。

「終わりじゃない……それで終わりじゃない……」

 “あの子”が私に教えてくれた、あの詩の意味を、私は思い出した。
 だからこそ、何をすべきかわかっていた。
 銃を取ることじゃない。こんな塹壕にいることじゃない。

「アサ……おい、なにするつもりだよ」

 怪訝な顔で私を見つめるユキノや仲間たち。彼女たちは察しているのだろう。
 私が向かう先は────

「そうだね。いこうコムギ」

 音もなく肩に飛び乗ったコムギともに、私は塹壕の縁に足をかけた。