「諸君、ケーキに関してなんだが……」

 宿舎に向かう前に、長机に集ういつものメンツ。しかし、いまは銃の分解清掃ではなく、2日後に迫ったクリスマス休戦に向けての作戦会議の場となっている。
 私はコムギを膝に乗せ、端のほうの席でひっそりと議論の行方を見守っていた。

「チョコが手に入ったことで、チョコクリームの占める割合を68%まで引き上げることが可能だ。そこで提案なんだが、ホールケーキではなく、ブッシュドノエルでいくのはどうだろうか?」

 メガネをかけた進行役の少女兵がホワイトボードに書かれたケーキの図を示しながら言った。

「なーにカッコつけてんだよ。切り株ケーキって言やいいだろがっ」
「そーだ、そーだ」

 ユキノが発言をイジリ、他の少女兵が便乗する。
 ちょっと喧嘩っぽくなったりするが、すぐにお互い笑い合って戯れて、また作戦会議を再開する。
 私を含めた数名はそんな感じだ。

 他のみんなはどうだろう。
 見渡してみると、何かを一生懸命作っていたり、いつも以上に話に花が咲いて大笑いしていたり……特に輪の中に入らずとも、穏やかな顔で微笑んで静かに佇んでいる子もいたり。
 その誰しもが、優しい色を纏っていた。

「よぉ、アサ。どした?やけに静かじゃん」

 ユキノが私にカラダを寄せて話しかけた。

「うん。みんなの表情を見てると、なんか嬉しくてさ」
「そうだな。アサのおかげだね」
「……でもさ。死んだ仲間たちのことも考えちゃうんだ。あの子たちの楽しそうな顔も……見てみたかったなって」

 ユキノは何も言わず、そっと私の肩を抱いてくれた。

「にゃぉーん」

 コムギも対抗意識を燃やしたのか、背伸びをして私の顔に擦り付いてくる。

「あの子たちの分まで……ね、アサ。コムギもそう言ってる」
「うん……ありがとう」

 あの子たちの魂は何処へ行ったのだろう。わかるはずもない。
 ならばせめて、苦しみも悲しみもない。そんな場所であってほしいと、私は願った。

「ところで、アサ……したい話があるんだけど」
「え?したい話?」
「……恋バナ」

 ババッ!と作戦会議をしていたはずのメンバーが一斉に私を取り囲んだ。そして息を合わせて飛びかかってくる。

「今回は逃さないからー!」
「白状してもらうよ?どんな男か洗いざらいさぁー!」
「女の子かも……よ?」
「……それ、すき」

 笑い声と戯れつく少女兵で揉みくちゃになる私。
 コムギはうまいこと逃げおおせたようで、少し離れて悠々とカラダを舐めていた。

「ちょちょっ、みんなやめ───」

 私がなんとか制止しようと言いかけた、そのときだった。
 

 ────ピィィィィィ!

 
 兵舎の外で、ホイッスルのような笛の音が聞こえた。
 全員がびくりと肩を跳ねさせる。

 続いて、怒鳴るような声。

「総員集合────!第一小隊、兵舎前に整列!!」

 その声は、子どもの声じゃなかった。
 低くて、ひどくざらついた……大人の声だった。

「……大人?」
「なんで、ここに?戦場には来ないはずじゃ……」

 兵舎の空気が、一瞬で凍りつく。
 ランプの炎が揺れ、仲間たちの顔が暗い影に沈んでいった。

 私は思わずユキノの手を握る。
 ユキノも同じくらいの力で握り返してきた。

 胸の鼓動が耳の奥でどくどくと鳴る。

「……アサ、行かなきゃ」
「……うん」

 みんなが毛布を落とし、武器を拾い、恐る恐る兵舎の出口へ向かう。
 外の風が雪を巻き上げていた。
 その白い舞いが、今まで見たどんな爆煙よりも不気味に思えた。

 外には────
 防護服を着た“大人”たちの影が並んでいた。