月居先生の恋愛カルテ


「あの、俺、クリスマスプレゼントもらってないんです。蓮さん、プレゼントをくれますか?」
「ごめん、俺、プレゼントなんて用意してなくて……」
「ふふっ、大丈夫。俺だって用意してないんですから」
 あぁ……気を利かせてプレゼントくらい用意すればよかったな、と後悔する。
 こういうところが、俺は駄目なんだと思う。
 日下部に抱き締まれたまま、自己嫌悪に陥ってしまう。


「俺、蓮さんが欲しいです」
「……え? 俺が?」
「そう。どうしても蓮さんが欲しいんだ」
「日下部…」
「お願い。今日だけでいいから蓮さんをちょうだい? 代わりに俺を蓮さんにあげるから」
 耳元で囁かれる言葉に思わず陶酔していしまう。
 ヤバい……、クリスマスの魔法にかかる……。


 額と額をコツンと合わせて視線を絡ませれば、あまりにも照れ臭くてそっと目を伏せた。
「クリスマスプレゼントは何もいらない。ただ、蓮さんが『丸ごと一個』いればいい」
「本当に?」
「はい、本当。切り売りされたケーキじゃなくて、ホールで売ってるケーキのが絶対美味いでしょう?」
 そのまま唇をペロッと舐められれば、ピクンと全身に力が入り……潤んだ瞳で日下部を見つめてしまった。


「だから……蓮さんを丸ごと一個ちょうだい……」
 恥ずかしくて顔を上げることさえできなくて……なんて答えていいかもわからない。ただいつもみたいに「図々しいんだよ、日下部の分際で‼」と言えない自分がいる。
 大丈夫。クリスマスは魔法の日だから。
 きっと、自分達にも魔法がかかるはずだ……そんな子供騙しの夢物語を信じてみたかった。
 今日くらい、素直になろう……。


「さっき日下部が……」
「ん?」
 耳まで顔を真っ赤にして、ポツリと呟く。
 でもその声はあまりにも小さくて、クリスマスの優しい音楽に簡単にさらわれてしまいそうだ。


「クリスマスツリーの下でキスをすると、思いが叶うっていうジンクスがあるって言ってた」
 勇気を振り絞って上げた顔は、きっと今にも泣きそうな顔をしている。空から舞い降りた雪が、頬に落ちて水滴となった。
 前髪をそっと搔き上げてくれながら、日下部が優しく微笑む。その笑顔に吸い込まれそうになった。
 あぁ、俺……幸せだ……。
 幸福感と、高揚感に満たされて行く。


「じゃあ、とりあえず……キス、しときますか?」
「し、しとく……」
「蓮さん、メリークリスマス」
「メリークリス……」


 でも、最後まで『メリークリスマス』と言うことはできなかった。
 なぜなら、日下部に優しく唇を奪われてしまったから。
 キラキラ宝石のように輝くクリスマスツリーの下で、ようやく俺は一歩を踏み出すことができた。まだまだ先は長いかもしれないけど……。
 それは、サンタクロースからの素敵なプレゼントに思えてならなかった。


「あ、はぁ…ふ……ッ」
 少しずつ熱が籠っていくキス。舌を絡めて、唇を吸って……体が火照り出した。


「こ、これ以上は駄目だ……もう少し待って……心の準備が……」
「何それ? めっちゃ可愛いじゃないですか? じゃあ、二人きりになった時に……ね?」
「……うん」
「もう少しだけ待ちますよ。俺の理性があるうちは……」


 もう一度ギュッと抱き締めらて……俺はその胸にそっと体を預ける。


 次日下部と会う時に、照れ隠しに「うぜぇんだよ、彼氏面すんなよ」と言ってしまいそうな自分が怖い。
 どうか、クリスマスの魔法よ解けないで……。
そう心の中でそっと祈った。


【END】