月居先生の恋愛カルテ


「ねぇ、蓮さん」
「ん?」
「今、好きな人とかいますか?」
「…………」
「ねぇ、いる?」
 あまりにも真面目な顔で問われた質問に言葉を詰まらせた。
『俺が好きなのは……』
 そう言いかけた言葉を、俺は呑み込んだ。
 その瞬間、瀧澤に浮気をされてボロボロになった時の記憶が、頭の中を過る……。
これの繰り返しで、俺は新しい恋ができずにいた。きっと、それはこれからも変わらないだろう。


 でも、でも……。
今日くらい素直になりたい……。


「い、いるよ」
「え? そうなんですか?」
 弾かれたように顔を上げた日下部を見つめれば、視界がユラユラと涙で揺れた。
「でも……」
「でも?」
「誰かは、秘密だよ」
「そっか。秘密……なんですね。ちょっと、知りたかったなぁ」
「日下部は馬鹿野郎だ」
「そりゃあ、医者に比べれば馬鹿ですよ」


 目の前には大きな大きなクリスマスツリーがそびえ立ち、心地いいクリスマスの音楽が流れている。
 キラキラと光輝いた世界。
 行き交う人達の顔まで、キラキラと輝いていた。


 そんな公園に、ヒラヒラと粉雪が舞い降りる。
 粉雪……違う。白い天使だ。
 可愛い可愛い笑顔の天使。
 クリスマスに、白い天使が舞い降りた……俺はそう感じた。


「男同士なんて、俺等だけじゃん」
「いいじゃないですか? 一緒にいて幸せなら……他人なんか関係ない」
 幸せそうに笑う日下部に腕を引かれ、そのままギュッと抱き締められる。その瞬間、心臓がドキドキと鳴り響き……呼吸さえできなくなる。体中が痺れて、立っているのがやっとだった。
「蓮さんがいれば、他はどうでもいい」
 そんな日下部を俺も抱き締め返す。子供みたいに無邪気な日下部が本当に愛おしく思えたから。
 だから抱き締めた。
 精一杯の思いをこめて。


 キラキラ輝くクリスマスツリーの上に、ドンドンと大きな音をたてて、星屑のような花火が打ち上がる。
穏やかなクリスマスソングが、嫌に耳に響いた。


 だって、今日はクリスマス。
 恋人や家族の為の温かいイベント。関係ないとは言いながらも、やっぱりその雰囲気は楽しくて仕方ない。
 そんな、サンタクロースがかけた魔法に、今日だけは染まってしまおう。
 いつもは素直になれない俺だけど……。
なぁ、サンタクロース。本当にいるなら少しだけ俺に力をください。


 メリークリスマス、日下部。