十九時ピッタリ……俺は待ち合わせの公園にいた。
公園には想像していた以上の人で賑わっている。キラキラと輝くイルミネーションに、たくさんの出店。
「あ、ホットワインとかある……」
少しだけ心がウキウキしてきた。
楽しそうな家族連れに、幸せそうなカップル。
俺と日下部は、一体周りにどうやって映るのだろうか……そう思うと少しだけ不安にもなる。
今更、やっぱり帰ろうか悩んでしまうけど……それ以上に、俺は今日、日下部に会いたかった。
でも、俺は日下部のことなんて……。
だって、もう恋で傷つきたくなんかないんだ。
「月居先生、こんばんは」
弾かれるように顔を上げれば、見慣れない私服に身を包んだ日下部がいた。
見慣れたスクラブではなくて、雑誌で見かけるようなカジュアルな洋服を着た日下部は、凄くかっこいい。キラキラ光るイルミネーションに負けないくらい綺麗で……。
そう思ってしまう自分が恥ずかしくなる。
「行きましょう」
「え? どこに?」
「一番奥の広場に大きなクリスマスツリーがあるんですけど、それを月居先生に……蓮さんに見せたくて」
俺のことを名前で呼んだことが恥ずかしかったのか、頬を赤らめながら微笑む。
「腹も減ったから、何か食いながら行きましょう? 蓮さん、何か食いたいものありますか?」
「俺、肉が食いたい!」
「ふふっ。いいですよ。俺も肉が食いたいです」
俺が目をキラキラさせれば、そっと手を取られる。
こんなところで……誰かに見つかったら……。
冷や冷やしながら手を払いのけようとすれば、指を絡め取られギュッとに握られてしまった。
「暗いから大丈夫です。それにいざとなれば俺が病院辞めますから。だからお願い……今日だけは手を繋がせてください」
「そ、そんな……」
「心配しないで。看護師なんて引く手あまただがら。すぐに新しい職場なんて見つかります」
幸せそうに微笑まれてしまえば、もう手を振り払うことなんてできなかった。
「ほら、これがクリスマスツリーですよ」
「わぁ! めっちゃ綺麗!」
「ね? 俺も実物は初めて見ました」
出店を抜けた先には大きな広場があって……その中心には大きなクリスマスツリーが立っていた。
まるで星みたいにキラキラ光るオーナメントが、枝という枝に飾り付けられて、眩しい位に輝いている。一番上には大きな星が翳されてあり、思わず息を飲む程に美しい。
広場にはランタンも置かれており、ユラユラと淡い光を放っていた。
その絵本に出てくるような光景に、思わず見とれてしまう。
ちょこちょこ出店に寄り込んでは食べまくっているうちに、時間はあっという間に過ぎていき……人影もまばらになってきた。もうすぐ閉園の時間だ。
「楽しかったな」
思わず呟いてしまった言葉に、自分自身がびっくりしてしまう。
嫌だな、俺はこんなキャラじゃないのに……。
「クリスマスのジンクスに、『クリスマスツリーの下でキスをすれば、二人は永遠に結ばれる』っていうのがあるんです。だから俺は、蓮さんとここに来たかったんです」
「クリスマスツリーの下で?」
「はい。いつも人の命に関わるようなピリピリした現場にいるけど……たまには、こういうロマンチックなのもいいんじゃないかな?」
「お、俺達にロマンチックなんてキモイだけだろう?」
「まぁまぁ、そう言わずに……おいで」
日下部がクスクス笑いながら、もう一度手を繋いでくる。その温もりにキュッと心が締めつけられた。
クリスマスツリーの下までゆっくりと歩み寄れば……破裂そうなくらい心臓が高鳴り出す。
怖くて、恥ずかしくて……。いつもみたいに「離せよ! キモイんだよ!」と日下部を怒鳴ることさえできやしない。
どうしたんだよ、今日の俺は……。
これじゃあ、これじゃあまるで……日下部のことが……。



