月居先生の恋愛カルテ


 このいくら考えても答えの出ない無限ループから、俺はずっと抜け出せないでいる。
 今日一日ずっと考えてみたけど……結局は、何で自分がこんなにモヤモヤするのかなんて、わからなかった。
 恋なんて御免だ……そう割り切って医師と看護師として接すればいいだけなんだから。


『月居先生って、頭が良いくせに本当に馬鹿ですよね。馬鹿っていうか鈍感?』
 少し前に日下部に言われた一言。
 確かにそうなのかもしれない。かと言って相談する相手もいないし……。


「蓮」
「ん?」
 仕事を終えた俺は、ステーションを出てトボトボと医局へ向かう。そんな俺に声をかけてきたのは、麻酔科医の瀧澤晴人……俺の元彼だ。
「なぁ、お前クリスマス予定あるの? 良かったら飯でも行かない?」
「あー、予定なかったけど、ついさっきできたわ」
「ついさっき?」
 瀧澤が顔を顰めるのを見て、イラッとしてしまう。
 大体別れた男とクリスマスを過ごそうなんて、下心見え見えなんだよ……。
 こいつの顔が良くなかったら、一発ぶん殴ってるとこだ。
 なぜなら、こいつのせいで、俺は新しい恋ができずにいるんだから。


「もしかして、あの看護師か?」
「あぁ?」
「日下部だっけ? あいつと約束してるとか?」
「日下部か……うん、そうだね」
 その名前を聞いただけで胸が痛む。
 泣きたいわけではないのだけれど、あまりにも心がグチャグチャになって、自分に残された手段は泣くしかないのではないか……と、思えてならなかった。
 ヤバい、やっぱり俺、日下部のことが……。


「なんで泣きそうな顔してんだよ? 何かあった?」
 そんな俺の頬を優しく撫でてくれる。
 下半身がだらしなかったけど、瀧澤は昔から優しかったなぁ……。ふとそんなことを思い出す。
「話聞いてやろうか?」
「お、お前なんかに話すことなんてねぇし」
「そんなこと言うなよ。蓮のことは俺が一番わかってるんだから。それに俺は今だって蓮が好きだ。いつでもお前が帰ってくるのを待ってるんだよ」
「…………」
「行こう。二人きりのが話しやすいだろう?」
 流されるまま瀧澤に肩を抱かれ歩き出すと、グイッと強い力に腕を引かれた。その力強さによろめきながらも、俺は後ろを振り返った。


「月居先生、一人点滴の指示出すのを忘れてます。もう一度病棟に戻ってください」
「日下部……」
「と言うことで、瀧澤先生失礼します」
 そう言いながら日下部は瀧澤に向かって丁寧に頭を下げる。
「ほら、行きますよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ」
 俺は日下部に引きずられるように歩き出した。