月居先生の恋愛カルテ


 クリスマスも恋も、今の自分には関係ないものだと思っていた。
 なぜなら、あいつもそういうのを気にするタイプではないから。
 前にクリスマスの話になった時に『寒いけど温かい』。クリスマスのことを、そう表現したあいつの言葉が胸に引っかかっている。
「寒いけど、あったかい……かぁ」
 そう呟けば、吐いた息が白いダイヤモンドのように空中でキラキラと輝いた。実に色々な場面で、他人と違う表現をするあいつらしい。


 ずっと仕事なかりしていたから気付かなかったけど、街へ少し繰り出すだけでクリスマス一色に染め上げられていることに、今更ながらビックリしてしまう。
 綺麗なガラス細工みたいな電飾に装飾されたクリスマスツリーに、赤や緑といったクリスマスカラーに身を包んだ街並み。
 遠くからは、楽しそうなクリスマスソングが聞こえてくる。なのに、自分の心は全くそのムードに溶け込むことができず、呆然と立ち竦んでしまった。
 全然ウキウキなんかしてこないし、むしろ、クリスマスにかぶれた世間に取り残されてしまっている気がしてならない。
 

 それでも、ショウウィンドウに飾られた色とりどりのプレゼントを見れば、
「あ、あれ……あいつが喜びそうだな」
 って思ってしまう自分が切ないし、馬鹿だな……と思えてくる。


 なぜなら、俺がこんなに苦しい思いをしていることなんて、『あいつ』は全く知らないのだから。元々鈍感なことに輪をかけて、人の気持ちを汲み取ることが苦手だ。
 そんなあいつに、自分の思いなんか伝わるはずもない。まぁ、更に輪をかけて俺が天邪鬼なんだけど……。そんなことわかりきっているけど、素直になんて今更なれるはずもない。
「もし、誘ってくれたらクリスマスを一緒に過ごしてやってもいいけどさ」
 けど、今日病棟に行って看護師の勤務表をそっと覗いてみたら、あいつはクリスマスイブ夜勤だった。
 そんな俺は当直だけどさ。


 結局、クリスマスとか年越しとか……そういったイベントの時は独身で恋人がいない奴が、夜勤をやる傾向にあると思う。「別に予定ないでしょ?」みたいな暗黙の了解。そう言われてしまえば、全くその通りだから快く引き受けるしかないのだ。そんな感じで、俺はクリスマスも年越しも当直だ。
 でも別に構わない。
 だって、年末年始なんて特別手当がつくし……要は世の中は愛ではない。金なのだ。
 だからクリスマスも通常運転。何もなかったように通過すればいい。


「本当にくっだらねぇよ、クリスマスなんか」
 広い広場にポツンと置かれたベンチに腰を下ろして、空を仰いだ。
 空は、いつの間にか星が瞬き、淡い三日月が浮かんでいる。あまりにもキラキラ輝いているものだから、クリスマスツリーに飾りたくなるくらいだ。
 暗闇でより一層クリスマスツリーが輝いているのを見れば、あまりにも綺麗で泣きたくなってしまう。
 子供達が自分の目の前を、楽しそうな声をあげて走り抜けて行く。それを微笑ましく見送ったけど……やっぱり空しさは消し去れなかった。


「日下部……お前から誘ってくれたなら、クリスマス、一緒に過ごしてやるぞ……」
 ポツリ粒いてから溜息をついた。