見れば、スタジオのドアからボブヘアの眼鏡の女性が顔を出している。目が真っ赤だ。
信じられない光景に驚きっぱなしで、彼女の存在を忘れていた。
年齢は四十代くらいだろうか。
「あなたもラジオ局の方ですか?」
人間がいるのなら、ほんの少しだけ安心だ。
「い、いえ」
『こいつは今日のお悩み相談のゲストニャ!』
『ザラメさん、泣かせておいて〝こいつ〟はないですよ。福田さんです』
シナモンが慌てたように言う。
『どうせ言葉は聴こえてないニャ』
「そういえば、どうして泣いていたんですか? もう大丈夫なんですか?」
あの時はちょうどラジオの音がよく聴こえなかった。
私の質問に、彼女は首を横に振った。
「もういいんです。私の気持ちは誰にもわかりませんから」
「え、でも」
『放っておけばいいニャ! そんなわからずや!』
ふらふらと出て行こうとする女性に、ザラメが言い放つ。とはいえ先ほどの設定によれば「ニャーニャー」としか聞こえていないはずである。
「わからずやって……あっ」
狭いスペースで出口に向かう女性にぶつかりそうになる。
「え……」
肩どころか右半身が確かにぶつかったはずなのに、何の感覚もなく彼女は通り過ぎた――すり抜けたと言うのだろうか。初めての感覚でうまく形容できない。
唖然としている間に彼女は出て行ってしまった。
「いい今の、何!? 幽霊!?」
『ユーレイと言えばユーレイですが』
「じゃ、じゃあ今の人、死んで……?」
『死んでないニャ。死んだやつはここには来れないニャ』
冷静なシナモンとは対照的に、ザラメは不機嫌そうな声を出して腕を組む。
『ニンゲンは、本来幽体という姿でしかここに来られないのです』
「ああ、だからさっき」
〝生身の人間〟と言ったのか。
『それに、一晩に来られるのは一人か一組。悩みごとを抱えたニンゲンか猫だけです』
色々なルールがあるのだなと、また自分の夢の細かい設定に感心してしまった。
「あの人、泣いてたし……フラフラしてて、全然大丈夫って感じじゃなかったけど」
それに随分ゲッソリした顔をしているように見えた。
『気にならないこともないですが、夢だと思ったまま身体に帰るので大丈夫ですよ』
というか、夢でしょ?
『そんなことより! 来週の月曜、ちゃんとここに来るニャ』
「だから働かな――はいはい。月曜ね。わかりました」
よく考えたら夢の中なのだから、意固地になって断る必要もない。
ひらひらと手を振って、私も帰ることにした。
こんな夢を見るなんて、よっぽど疲れているのだろうか。
信じられない光景に驚きっぱなしで、彼女の存在を忘れていた。
年齢は四十代くらいだろうか。
「あなたもラジオ局の方ですか?」
人間がいるのなら、ほんの少しだけ安心だ。
「い、いえ」
『こいつは今日のお悩み相談のゲストニャ!』
『ザラメさん、泣かせておいて〝こいつ〟はないですよ。福田さんです』
シナモンが慌てたように言う。
『どうせ言葉は聴こえてないニャ』
「そういえば、どうして泣いていたんですか? もう大丈夫なんですか?」
あの時はちょうどラジオの音がよく聴こえなかった。
私の質問に、彼女は首を横に振った。
「もういいんです。私の気持ちは誰にもわかりませんから」
「え、でも」
『放っておけばいいニャ! そんなわからずや!』
ふらふらと出て行こうとする女性に、ザラメが言い放つ。とはいえ先ほどの設定によれば「ニャーニャー」としか聞こえていないはずである。
「わからずやって……あっ」
狭いスペースで出口に向かう女性にぶつかりそうになる。
「え……」
肩どころか右半身が確かにぶつかったはずなのに、何の感覚もなく彼女は通り過ぎた――すり抜けたと言うのだろうか。初めての感覚でうまく形容できない。
唖然としている間に彼女は出て行ってしまった。
「いい今の、何!? 幽霊!?」
『ユーレイと言えばユーレイですが』
「じゃ、じゃあ今の人、死んで……?」
『死んでないニャ。死んだやつはここには来れないニャ』
冷静なシナモンとは対照的に、ザラメは不機嫌そうな声を出して腕を組む。
『ニンゲンは、本来幽体という姿でしかここに来られないのです』
「ああ、だからさっき」
〝生身の人間〟と言ったのか。
『それに、一晩に来られるのは一人か一組。悩みごとを抱えたニンゲンか猫だけです』
色々なルールがあるのだなと、また自分の夢の細かい設定に感心してしまった。
「あの人、泣いてたし……フラフラしてて、全然大丈夫って感じじゃなかったけど」
それに随分ゲッソリした顔をしているように見えた。
『気にならないこともないですが、夢だと思ったまま身体に帰るので大丈夫ですよ』
というか、夢でしょ?
『そんなことより! 来週の月曜、ちゃんとここに来るニャ』
「だから働かな――はいはい。月曜ね。わかりました」
よく考えたら夢の中なのだから、意固地になって断る必要もない。
ひらひらと手を振って、私も帰ることにした。
こんな夢を見るなんて、よっぽど疲れているのだろうか。



