ザラメはこちらを不審そうに睨んでいる。夢だからだろうか、猫にも人間のような表情があるのだなと妙に感心してしまった。
「な、なんでって、そんなのこっちが知りたいくらいで」
もちろん夢だからなんだろうけど。
『ニンゲンに俺たちの言葉がわかるのは、マイクを通した時だけのはずニャ』
我ながら設定の細かい夢だ、と若干頭が痛くなってきた。早く目が覚めてほしい。
『シナモン!』
その声に、肩にぶら下りっぱなしだった茶トラのシナモンがまた、ボディチェックを始める。
そして私の上着の膨らんだポケットにムン!と顔を突っ込んだ。
『こ、これは』
「ちょ! ちょっと!」
ゴソゴソと器用に前脚を突っ込んで、中のものを取り出されてしまった。
「わわ……っ」
取り出されて落ちそうになったそれを慌てて両手で受け止める。
姿を現したのは、古いラジカセ。
ポータブルラジカセなんて言うらしいそれは、今どきの音楽プレーヤーみたいに小さくないし、スマホみたいにスマートでもなくて、いつもポケットでもバッグの中でもずっしりとした存在感を放っている。ワイヤレスのイヤホンなんてもちろんつなげられない。
だけど赤いボディにブルーのボタンがレトロで可愛くて、前述の通りの温かみのある音質がお気に入り。
『ザラメさん、これメアリーのラジオじゃないですか?』
その言葉にザラメの目がカッと開いたかと思うと軽々とジャンプして、私の耳からイヤホンを外してしまった。
「何するの!?」
「ニャーニャー!」
「え?」
「ニャニャ、ニャー!」
「何? なんて言ってるの?」
目の前のザラメは猫の声で鳴いている。
当たり前のことなのに戸惑ってしまった私に、ザラメはイヤホンを『耳に差せ』と言うように差し出した。
「なんなのよ……」
再び耳にイヤホンを差し込む。
『やっぱりニャ!』
「ひゃっ!」
また、ザラメの言葉がわかるようになった。
『お前、そのラジオをどこで手に入れた?』
「どこって」
とある老婦人の顔が脳裏に浮かぶ。シルバーヘアで、笑顔が上品な女性。名前はそう……

「もらったのよ、ここで。メアリーに」