Stray tune ー 真夜中サビねこ放送局 ー

機材スペースの方から、低くて落ち着いた声が響いた。
その瞬間、イスに座っていたザラメが大きく跳ねた。
「ア、アンバー! なんでお前がいるニャ!」
そこに立っていたのは、私服姿のアンバーさん。昼間と違って、パーカーのラフな装いだ。
「今夜は私の番組が休みなので。概ね最初から聴かせてもらいました」
「ニャ!? 休み!?」
「くぅ……調査不足でしたね」
『私の番組』とは一体どういう意味だろう。
そしてもう一つ、気になることがある。
「アンバーさん、猫が喋ってるのに全然驚いてない……?」
「そういえばそうニャ!」
ザラメの反応を見たアンバーさんはハァ……と深いため息をついた。
「ずっと聞こえていましたよ。マイクなんか通さなくても、子どもの頃から会うたびに私を口悪く罵る声が」
「ニャ!?」
「『バカ』『できそこない』『メアリーの孫とは思えない』」
アンバーさんは淡々と悪口を挙げていく。
心なしか、ザラメの顔が赤面しているように見える。
「他には何だったかな。『冷血……」
「も、もういいニャ!」
「ど、どうして隠していたんですか? 聞こえてるって」
「シナモン、君はずっと礼儀正しかったね」
アンバーさんは優しく微笑んだ。
「誰だってうんざりするだろう? ずっと悪口を言われていたら。応戦するのも馬鹿らしいから無視していたんだよ」
穏やかな口調が、かえって怒りを孕んでいるようで恐怖を感じさせる。
「君が優秀な魔法使いだと尊敬してやまないメアリーの孫が、動物の言葉すらわからないはずがないだろう? ザラメ」
ザラメの毛が逆立っているけど、どこに感情をぶつけていいのかわからないようで、ワナワナと小刻みに震えている。
「まあいい。それより先ほどの津奈子さんを雇うというお話ですが、許可できません」
ショックのあまり「え……」と声に出してしまった。
「言ったでしょう? このブースはもう撤去する、と」
そうだ。彼はそう言っていたんだ。
「で、でも、ザラメたちが使って……」
私の言葉に、アンバーさんはニヤリと口角を上げた。
「持ち主に断りもなく勝手に使うというのは感心しませんが、私は言ったはずですよ」
「え? 何をですか?」
使いたい(・・・・)という申し出があれば存続も考えると」
そこまで言われて、彼の意図を理解した。
つまり、アンバーさんは……。
「ザラメがお願いすれば、使わせてくれるんですね」
彼はまたニッコリと笑った。
しかしこれは、簡単なようでハードルが高い。ザラメのプライドが高いのは数日でも十分過ぎるほど感じられたのだから。
「どうする? ザラメ。メアリーの宝物を生かすも無くすも君次第だ」
非道なようにも見えるけど、先日のザラメの嫌味のオンパレードを知っていれば無理もないと思える。