Stray tune ー 真夜中サビねこ放送局 ー

シナモンの鮮やかな手つきでエンディングの曲が流され、今夜の『ミッドナイトねこねこレディオ』は無事終了となった。
スタジオの中では福田さんがスッキリとした表情を浮かべて笑っている。
きっとこれが〝みんなの心のよりどころ〟ということなのだろう。
「おつかれさまです」
と、スタジオに顔を出す。
「ザラメっていいDJなのね」
「うんうん。聞き上手でたくさん話してしまいました」
「ふ、ふん! 当たり前ニャ。それよりお前!」
ザラメが福田さんを指……というか前脚で指した。
「本来は生身のニンゲンはゲストになれないニャ! 今日のことは誰にも言うニャよ」
福田さんは「夢じゃなかったなんてびっくりだけれど……」と言いながらも秘密は守ると深々とうなずいた。
「それってどういう仕組みなわけ? 幽体でしか来られないって」
この間から疑問だった。
「メアリーの魔法ニャ」
「そんな一言で……」
「メアリーはきっと、ザラメさんと僕がラジオをやりたがるってわかっていたんです。だから、僕たちが見せ物にされて危険に晒されないように、ニンゲンが夢だと思う仕組みにしてくれたんじゃないでしょうか」
いつの間にか隣にいたシナモンの説明で納得がいくような、いかないような。とはいえ魔法が存在するのだから、何があっても不思議ではない。
「ところでツナさん。あなた、何かお悩みがあるんじゃないですか?」
「え……」
「我々のラジオは、悩みや心のモヤモヤを抱える人や動物にしか聴こえないんです」
これまたどういう仕組み……。
「だからつまり、あなたにも何か悩みやモヤモヤすることがあるのでは?」
「モヤモヤ……」
頭の中にはある事が浮かんでいるのだけれど、なんだか口に出しにくい。
「俺はメアリーとのことを聞かせてやったニャ! お前も腹を割るニャ!」
「そんな横暴な」
「話すとスッキリしますよ」
笑顔の福田さんにまで参戦されてしまっては、言わないわけにはいかないムード……。
「ラジオスタッフのアルバイトに応募し損ねて……」
「ニャ? この前面接したニャ」
私は首を横に振った。
「違うの。『スターダスト・ティータイム』っていう、スターFMの番組のスタッフなの」
ザラメとシナモンはなぜだか顔を見合わせた。
「いつも疲れた心を癒してくれる大好きな番組で……都会にいるって、都会に一人でいるんだ、って感じたときに、寄り添ってくれて」
〝ひとりぼっちじゃないよ〟と言ってくれるようなラジオ番組。
まさに〝心のよりどころ〟だったのだ。
「どうして応募しなかったんですか?」
聞いたのは福田さん。
「私って、緊張しやすくて、ドジで……今やってるアルバイトでも失敗ばっかりなんです」
両手で自分の服の裾をギュッと握る。
「自信がなくて。きっと失敗だらけで、大好きなラジオを嫌いになっちゃうって思ったの……それで応募できなくて、でも後悔していて」
応募ボタンすら押せなかった自分をますます嫌いになった。
「ならちょうど良かったニャ」
「え?」
「『ねこねこレディオ』はシナモンも失敗ばっかりだから、ちょっとくらい失敗しても大丈夫ニャ」
「失敗はザラメさんじゃないですか!」
ザラメとシナモンは軽く猫パンチをし合っている。
「とにかく! ツナはここで働くといいニャ!」
「今回の件は失敗どころかファインプレーでしたしね」
シナモンがウインクをした。
「私も、津奈子さんはこのラジオに必要な人なんじゃないかって思います」
「ふ、福田さんがそう言ってくれるなら」
ここのスタッフになるのも悪くないかな、なんて思い始めたところだった。

「家主の許可もなく、勝手に決めないでいただきたいな」