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一年くらい前。
秋が冬になろうとしている頃のある夜。
『ザラメちゃん。残念だけどお別れが近いみたい』
暖かな部屋で、メアリーが言ったニャ。
いつもみたいに、イスに座ったメアリーの膝に乗っていた時に。
『ニャ! メアリー、どこかに行っちゃうのかニャ?』
メアリーは首を横に振ったニャ。
『私、もうすぐ死んじゃうの』
『ニャ……う、嘘ニャ』
また、首を振ったニャ。
その顔は静かに笑っていて、本当のことを言っているってすぐにわかってしまったニャ。
『う、嘘ニャ……嘘ニャ……メアリーは、俺より先に死なないって言ってたニャ。嘘つきになっちゃうニャ』
『そうねえ。私も魔女だからザラメちゃんより長生きできると思ったのだけれど……嘘つきになっちゃうわねえ。ごめんなさいね』
そう言って、メアリーは俺の頭をなでてくれたのニャ。
『メアリーがいなかったら、俺、俺、生きていけないニャ』
子猫の俺をメアリーが拾ってくれたから幸せに生きてこられたんだから。
毎日なでてくれて、いつも俺とシナモンと一緒の布団で寝てくれて。たまには二人で散歩にも行ったのニャ。
『あら、だめよ。そんなこと言ったら』
『でも……』
『私がいなくなって、ザラメちゃんの元気がなくなってしまうのは悲しいわ。自分が死ぬことよりもずっと悲しい』
メアリーはずっとなでてくれてたニャ。俺は恥ずかしげもなく涙を流してしまったのニャ。
『ザラメちゃん』
『…………』
『私がいなくなって元気がなくなってしまうなら、私のことは忘れたっていいのよ。シナモンやアンバーと元気に仲良く、それに楽しく暮らして欲しいわ』

その夜メアリーは『ザラメちゃんなら大丈夫よ』って言いながら、ずっとなでていてくれたニャ。

『私は天国からずーっと見守っていますからね』