『よく言うニャ。メアリーは店もラジオもやってたニャ』
確かにそうだ。
――『私はね、カフェもラジオも同じ気持ちでやっているの』
取材のときに彼女は言っていた。
――『ホッとひと息の、心のよりどころになるようなお店と番組にしたいって』
だから彼女の番組にはこの地域に住む人たちからの何気ない日常のことや、小さな悩みごとなんかのメールが届いていて、メアリーはいつも穏やかな声でそれに応えていた。温かくて、大好きな番組の一つだった。
このカフェの前を通りがかってメアリーがブースで喋っていると、いつも窓の外に微笑みかけてくれたっけ。それでついお茶をしに中に入ってしまうのだから、彼女は商売上手だった。ふふ、と思い出し笑いと同時に寂しさも込み上げる。
十二時近くなり、店が混雑し始めた。
ザラメもイスから、私の左隣の低い仕切りの上のスペースの移動している。
「そういえば、シナモンは?」
他の人に悟られないよう、ヒソヒソと声をかける。
『あいつは大勢ニンゲンがいるのが嫌いだから、まだ上で寝てるニャ』
このカフェの上がザラメたち、そしておそらくアンバーさんの住居になっているようだ。
「昨夜のあの女の人、大丈夫かしら」
少なくなったミルクティーを口にしながら聞く。
『知らないニャ』
あからさまにテンションの下がった声色だ。
「どうして? ゲストだったんでしょ?」
『ひとの話も聞かずに泣き出したやつニャ。自分勝手で嫌いニャ』
そう言うザラメだってかなり自分勝手なんじゃないかと思う。
「何か事情があるんじゃない?」
私がたずねても、ザラメはツンとそっぽを向いて知らん顔だ。
トーティを後にして、とある場所に向かう。
実は昨夜、気になってベッドの中であの女性のことを検索してしまった。
【詩編町】、シナモンが口にした【福田】という名前、そして【画家】のキーワードで。
あの時すれ違った彼女の手に、絵の具のようなカラフルなものがついているのが見えた。
考えはビンゴで、すぐに情報に行き着いた。
彼女は福田湊さんという三十五歳の油彩画家で、ちょうど今、詩編町二丁目のアトリエで個展を開催中だそうだ。
【WELCOME】の黒板の立て看板が目印の会場は、平屋造りのガレージのような建物。
確かにそうだ。
――『私はね、カフェもラジオも同じ気持ちでやっているの』
取材のときに彼女は言っていた。
――『ホッとひと息の、心のよりどころになるようなお店と番組にしたいって』
だから彼女の番組にはこの地域に住む人たちからの何気ない日常のことや、小さな悩みごとなんかのメールが届いていて、メアリーはいつも穏やかな声でそれに応えていた。温かくて、大好きな番組の一つだった。
このカフェの前を通りがかってメアリーがブースで喋っていると、いつも窓の外に微笑みかけてくれたっけ。それでついお茶をしに中に入ってしまうのだから、彼女は商売上手だった。ふふ、と思い出し笑いと同時に寂しさも込み上げる。
十二時近くなり、店が混雑し始めた。
ザラメもイスから、私の左隣の低い仕切りの上のスペースの移動している。
「そういえば、シナモンは?」
他の人に悟られないよう、ヒソヒソと声をかける。
『あいつは大勢ニンゲンがいるのが嫌いだから、まだ上で寝てるニャ』
このカフェの上がザラメたち、そしておそらくアンバーさんの住居になっているようだ。
「昨夜のあの女の人、大丈夫かしら」
少なくなったミルクティーを口にしながら聞く。
『知らないニャ』
あからさまにテンションの下がった声色だ。
「どうして? ゲストだったんでしょ?」
『ひとの話も聞かずに泣き出したやつニャ。自分勝手で嫌いニャ』
そう言うザラメだってかなり自分勝手なんじゃないかと思う。
「何か事情があるんじゃない?」
私がたずねても、ザラメはツンとそっぽを向いて知らん顔だ。
トーティを後にして、とある場所に向かう。
実は昨夜、気になってベッドの中であの女性のことを検索してしまった。
【詩編町】、シナモンが口にした【福田】という名前、そして【画家】のキーワードで。
あの時すれ違った彼女の手に、絵の具のようなカラフルなものがついているのが見えた。
考えはビンゴで、すぐに情報に行き着いた。
彼女は福田湊さんという三十五歳の油彩画家で、ちょうど今、詩編町二丁目のアトリエで個展を開催中だそうだ。
【WELCOME】の黒板の立て看板が目印の会場は、平屋造りのガレージのような建物。



