悪徳令嬢・悪役令嬢モノ(6短編集)

「はぁ、もうイヤ」

 日本から異世界の悪役令嬢に転移したばかりの花蓮(かれん)は溜息をついた。
 ここは公爵屋敷の令嬢部屋。

『どうしたの? 花蓮』

「わがままを言ったり、メイドをいじめたり、婚約者の王子を振り回すのは、私の性格からして嫌よ」

『そんなこと言われましても……ねぇ』

『ガンバレ花蓮』

「やめて。私のHPはゼロよ。無理」

 会話をしているのは女子校から転生されてきたばかりの花蓮と自称キューピット二名の三人である。

『いいじゃん、ワガママ言い放題の人生なんて贅沢だよ』

『学校じゃイジメに発展するような我儘でも、ここじゃ誰からも注意されないからね、天国みたいなもんだよ』

「それじゃ最後には誰かに恨まれて刺されるのがオチじゃないの」

『花蓮、早速婚約中のメイドを別れさせよう』

『今夜、恋人と会うそうだしね、何か用を言いつけよう』

「日本人である私はそういう事はしないの! 他人の幸せは祈っても嫌がらせはしないの!」

『でも日本人の学校でのイジメは無くなっていないよね?』

『陰湿だから自殺が絶えないんだって聞いてるよ?』

「それは〇〇した人たちが混じってるからなの!」

『そういう事言うと怒られるよ』

『メディアでさえ内部に入り込まれて言及は避けてるのに! 花蓮、きっと怒られるよ』

『全体で見れば少数なのに声だけは大きい変な人達なだけだよ』

「いえ、少数の意見はちゃんと汲み取らないといけないけどね」

『ネットでは煽りまくり鵜呑みにした人に罪をかぶせるタイプの素養のある人達だね』

「知らないわよ。あなたたち日本にいた精霊なの? 詳しすぎるし」

 花蓮のあまりに強引な偏った屁理屈主張に項垂(うなだ)れる二人の天使。
 時々、こういった転生・転移の人間が送り込まれてくるから接する担当者たちは辟易する。

『はぁ、花蓮ちゃん、ゴネずに明日から頑張って』

『ガンバレー! ジャイアン!』

 静かな部屋に時を刻む時計の音だけが木霊する。
 呼吸音も耳をすませば聞こえるかもしれないが、このような御仁を如何に説得するかに接待人の腕に掛かっている。

「やっぱ無理だわ」

 花蓮はボソリと呟いた。
 転移して時間が経っていないこともあり、精神は不安定で、理論的に活動しようなどとは期待できない段階である。時々、転移して回復せずに発狂状態で窓から飛び降りるものもいる。それを防ぐのも天使の腕次第なのだが、今回の花蓮は普通に天使と会話できるため、大丈夫そうと考えられている。

『まぁ、待て』

 すると天井から厳かなる声がした。天使たちの上司である龍神だ。

『当分、花蓮の活動はペンディングじゃ。棚上げする。現状維持で待機せよ』

 珍しい裁定が神から下った。

『龍神さま、よろしいので?』

『うむ』

『承知いたしました』

 二人の天使は花蓮に顔を向けて親指をぐっと上に向け、ウインクした。

(どうしよう……時間は稼げるでしょうけど、問題を後回ししただけだわ……)

 花蓮が悩んだ理由は、日本での彼氏が婚約中の王子に転移しているからだった。
 転移・転生者に備え付けられるのか、以心伝心のような魔法があった。
 恋人をいじめ倒すなどという気持ちはない。寧ろ良妻賢母のごとく支えたいと思う。

◇◆

 次の日、花蓮は自らの命を絶った。窓から飛び降りたのだ。

『龍神さま、もう悪役令嬢のルートは止めませんか?』

『龍神さま、僕たちも辛いです』

『うーむ、分かった。無期限延期とするじゃ』

 こうして無期限延期となった悪役令嬢の転移転生は、教会の招致委員会に勅命が下り差し止めとなった。自殺率が低くなると思われた日本では、なぜか大きな差は生じず、残念な結果となった。

『自殺を減らす抜本的な対策はないもんかのう』

 その頃から龍神は、なぜか異世界である日本の自殺率を気にするようになったという。

◇◆


【龍神さま達】



 ティファニー社&パテックフィリップ社製の18K宝飾ペンダント。大きな龍神と小鬼みたいな人が両脇にいます。ムーブメントはクロノメーター級のエクストラ仕様。1900年ごろ。パテック社にて鑑定もしましたが、かなり珍しい造り(美術品的に)だそうです。側ケースの内ケースを入れると三重蓋になっています。