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「え、待って待って待ってそれせこい、は、え?」
「せこくねえ。お前が弱いだけ」
「だって反応しないっすこれ壊れてます!」
「んなわけねー」
「ちょ、待ってお願い先輩! マジでマジで!」
「あ。勝った」
「あ。サイテー」
「なんでだよ」



テイクアウトしたハンバーグはぺろりと平らげた。遥は「うおー緊張する」と全く緊張してなさそうな声色で言いながら家に来たけれど、ご飯を食べ始める頃にはすっかり馴染んでくつろいでいた。


遥の「え先輩ゲームやるんだ」という何気ない言葉から、俺たちはソファの上で横並びになってあぐらを掻いてゲームをすることになり、もう一時間以上、こんな調子だ。俺は兄弟がいないし、普段は天馬くらいしか一緒にゲームする人がいないので、純粋に嬉かった。

遥と一緒にいると、やっぱり楽しい。


顔も良くて、無邪気で、素直で、怖いもの知らず。そんな眩しい人間が、本当かどうかはさておき俺のどこが好きなんだろう。

好きだとか、デートだとか、付き合ってほしいだとか。

そういう、男女が普通とされていることを、遥は俺に堂々と言ってくる。本当だろうか? 本当に、本気で遥は俺を好きになってくれているのだろうか?


中学の時みたいになるのが怖い。自分がマイノリティだとわかっているからこそ、踏み出せないし、簡単に信用できない。

でも、遥なら。

信じてみる価値はあるんじゃないかと、期待してしまう。


「うわ、もうこんな時間だ。オレそろそろ帰ろうかな」
「……あー、うん」
「え。なに今の間」


まだもうちょっとだけ一緒にいたい、とからしくないことを考えてしまったせいで、会話に変な間ができてしまった。



「もう一戦やる?」
「……おう」


言葉にはひとつもしていないのに、全部見透かされているみたいで、俺はどうしようもなくなってしまう。落ち着かなくなって、意味もなくコントローラーを触る。俺と遥の使用キャラがVSで繋がれ、ゲームが始まった。



「ねー先輩」
「うん」
「オレ、先輩のことマジで好きなんですよ」
「うん」


普通を装う。意識が遥の声に持っていかれる。集中できなくて、手元がもたつく。


「先輩さ、オレの気持ち半分信じてないでしょ」
「うん」
「期待はさせるくせにさ」
「はあ?」
「オレのこと信じらんないっていうなら、そんな帰ってほしくなさそうな顔しないでよ」



俺のキャラが押され気味だ。

遥がどんな顔をしているのか見るのが怖くて、俺はゲーム画面だけを真っ直ぐ見つめる。

ああやばい、またミスった。



「この試合終わったら帰れよお前」
「先輩が勝ったら帰るよ」
「お前さっきまで散々負けてたろーが」
「どうやったら先輩はオレのこと好きになってくれる?」


HPが削られる。さっきまで負け続きだったくせに、なんでこの試合に限って。



今なら間に合う。まだ間に合う。ここから巻き返せる。



「……お前は女も好きになれるんだろ。わざわざ面倒な方選ばなくたっていいじゃん」
「先輩って面倒くさいの? 好きかも」
「女の子のほうが可愛いし、柔らかいし、エロいだろ」
「先輩それ一ミリも思ってないでしょ」
「俺は……」



指先が震える。うまく動かない。コントロールできない。


ああやばい、このままじゃ、俺は。



「じゃあお前、俺とキスできんの?」
「湊先輩」
「……いや今のやっぱりナシ───…」



画面に映ったK.O.の文字が消えると同時に、視界の端で金色が揺れた。


「言ったでしょ」
「、遥」


「オレは湊先輩だから好きなんだよ」