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「湊先輩みーっけ。一緒に帰ってもいーですか」
「待ってたくせに白々らしい」
「えーでもオレら毎日別に約束してないじゃないですか。オレが待ってるかもって思ってるのは先輩のほうであって」
「都合よく解釈すんな」
「えー?」



遥の言うとおりだ。部活に所属していない俺は基本的にはいつも同じ時間に昇降口を通るのだが、それを知った遥が俺に合わせて教室を出ている、というところまでわかっている。

毎日のように「一緒に帰りましょ!」と言われていたら嫌でも覚える。だからこれは仕方のないことで、避けられないことだ。



「ハラ減った。なんか食いたい」


俺の隣を歩く遥がひとりごとのようにつぶやいた時、ふと今朝交わした母との会話を思い出す。


「あ」
「お?」
「や。今日親出かけてるから。夜ご飯ないんだったなって」



今日の昼、夜、明日の朝、明日の昼、の分まで込みで渡されたひとつも折り目のない五千円札。残ったら好きに使っていいよと言われたいるので、実質お小遣いのようなものだ。


「え! じゃあどっかで食って帰りません? オレ肉食いたいです」
「あーいいじゃん」
「やった。デートだ」
「はぁ? バカ」


遥の声が弾んでいる。「ちげえだろ」とすかさず言うと、遥は「オレがそう思ってたらオレの中ではそうなんすよ」と笑った。

この笑顔は、ちょっと可愛い。