「雲のない空が広がり、夜は星がよく見えるでしょう。では続いて週間の天気です。明日明後日は気温がぐっと下がり―――」

(みなと)ー?」


トーストとカフェオレを惰性で胃に入れながら朝の情報番組を見ていた俺を母が呼ぶ。

どんなにゲームをしてもスマホを構ってもいいから朝のニュースは見たほうがいい、情報も常識もない人間になるな、と単身赴任を繰り返す父に言われて育った。

父は寡黙で、真面目で、常識のある人なので、俺は特に反抗することもなく、父の教えを守り続けている。



「明日のお昼までのご飯代、ここの引き出しに入れとくから」
「ご飯代? なんで」
「はあ〜忘れてると思った。お母さん今日サワちゃんたちと温泉行くって言ったでしょ」
「あー……」


そんなことも言っていたような、言っていなかったような。ういーと短く返事をすると、母は呆れたようにため息を吐いて、それからすぐ「朝食バイキングがすごいらしいのよー」と聞いてもいない旅の話を楽しそうに始めるのだった。


「お父さんにもお土産買ってこなくっちゃ。来月の連休はこっちに帰ってくるんだって。湊の誕生日も近いし」
「誕生日とかもういいって。俺もう十七だし」
「幾つになってもお祝いしたいんでしょうよ。一緒に暮らしてない分、聞きたいことがきっといっぱいあんのよ。彼女いんのかーとか、学校はどうなのかとか。まあなんでもいいのよ。ただ話したいだけなんだから」


父と母は、とても仲が良い。ラブラブとかいう甘ったるい感じじゃなくて、心からお互いを生涯のパートナーとして受け入れ、信用し切っている関係。
両親を見ていると、この人たちは死ぬまで一緒に生きるんだろうなと思う。

同時に、自分には到底無理なんだろう、とも。



「で、実際彼女はいるの?」
「いねーよ」
「別れた?」
「そもそもいねーって」
「なあんだ。とっかえひっかえやってんのかと思った。あんたモテるんでしょ? 嫉妬しちゃうって言ってたわよ。欲しいって」
「はあ? 誰が」
「誰って、(はるか)くんに決まってるじゃない」


ハルカ。最近よく耳にするその名前に、自然とため息が出た。


「あんたの顔が欲しいって、遥くんって系統が違う顔に憧れあるのかね?」
修羅場だけはやめてよねーと笑いながら母が言う。
同じ言語を使って生きているのに、まるで違う星の言葉みたいだ。