誕生日会を終えた俺と朔は、改めて俺の部屋のベッドの上で膝を突き合わせた。
「あの、先輩。今日はありがとうございました」
「いや、むしろこっちが感謝だよ。あんなに母さん達が喜ぶなんて思ってなかったから」
両親は娘が欲しかったのもあり、さらのことを至極可愛がったのだ。見た目も可愛いから、余計にテンションは最高潮だ。今も一緒に寝ると言って離さない。
俺が小学生なら、赤ちゃん返りしていたかもしれない。それくらい、歓迎されている。
そして、さらを取られてしまった朔は、俺の部屋で二人で眠ることになったのだが……。
「俺、布団で寝るから、ベッド使って」
「先輩。一緒に寝ましょう」
「いや、ベッド使って。俺、下で良いから」
「じゃ、布団で一緒に寝ましょう」
「じゃあ、俺がベッドに行くから」
「分かりました。ベッドで二人で寝ましょう」
どっちで寝るか論争に決着がつかない。
「あー、もう! ここは、ベッドをどっちが使うかを遠慮し合いながら決めるとこだろ? なんで一緒に寝る選択肢しかないんだよ!」
「俺たち、結婚するんですよ。一緒に寝ないでどうするんです?」
「結婚って……今日付き合い始めたばっかじゃん」
さすがに重い。
そもそも男同士で結婚はどうやってするのだろうか。
「先輩、事実婚知らないんですか?」
「わ、エスパー? 俺、口に出してないんだけど」
「顔に書いてありました」
そう言われ、ペタペタと口元や頬を触ってみる。すると、フッと笑われた。
「最初から顔に書いてて下さいよ。恋に落ちたなんて知らないから、二回目の十秒チャレンジで、先輩が俺に夢中になる呪い、めっちゃかけたんですよ」
「マジ? 俺、呪われてんのか……」
「ついでに、先輩が熱出した時、顔が不細工になる呪いもかけときました」
「は? 酷ッ」
朔は顔が良いから、少しくらい歪になろうが支障はないかもしれないが、俺はこれ以上不細工になったら困る。
それはさて置き、せっかく念願叶ったのだ。絶対叶わないと思っていた恋心を封印しなくて良いのだ。
俺は真剣な表情になり、改めて朔に向き直る。
「朔」
「やだ」
「やだって、まだ何も言ってないけど」
「そんな真剣な顔して、別れ話以外ないじゃないですか」
想いが通じて欲しい時には、その力は発揮されないようだ。
「そうじゃなくて、俺の絵」
「絵?」
「美術館に飾ってあるんだけど、明後日までで、一緒に見に行って欲しいなって」
「俺が行っても良いんですか?」
朔の目がいつもより大きく開く。その瞳にじっと見られ、俺は照れたように目を逸らす。
「朔と、デートしたい……さらちゃんも一緒で良いから」
「先輩、ギュッてして良いですか」
「ダメ」
膝立ちした朔を警戒するように、俺は枕を抱いて体をやや後ろに反らす。
「先輩……俺のこと嫌いなんですか?」
寂しげな表情になる朔。まるで百面相のように変わる表情は、俺の一言で左右されるらしい。
「好き……だけど、初めてだから……その……」
恐る恐る手を出した。
「手を繋ぐところからお願いします」
既に抱きしめられているし、キスまでされている。鼻で笑われそうだが、近くにいるだけでドキドキが止まらないのだ。今抱きしめられたら、本気で心臓がもたない。
「先輩……犯罪的に可愛いです」
朔が俺の手を握った。そして、引っ張られた。
「わッ、ちょ」
俺は朔の胸にダイブした。
とはいえ、まだ枕でワンクッション置かれている。と思ったのも束の間、枕をスッと抜き取られた。完全に抱き締められてしまった。
「もう、ダメだって言ったじゃん」
「ちゃんと手を繋いでから抱きしめたんで、セーフです」
「なんだよ、その屁理屈」
ムッとしながら言えば、朔の曇った声が落ちてきた。
「でも俺……あの人と同じですね」
「朔。それは違うぞ」
「違わないですよ。絶対に恋に溺れないって決めてたのに、先輩が好きって言ってくれただけで、もう離れたくないって思ってしまったんですよ。嘘でも、突き放すべきなのに……」
「朔……」
「それに、もしも先輩が夜に会いたいって言ってくれたら、俺は多分さらを部屋に置いて先輩に会いに行くと思います。だから、俺はあの人と一緒なんです」
なんと声をかければ朔が救われるのか。
いや、そもそも朔の心は既にズタボロのはずだ。俺の一言で救われるはずがない。それなら、せめて――――。
「朔、今度三人で絵を描こう」
「絵?」
「本来なら、付き合うのやめようって言えば良いんだろうけど、俺だって朔と離れたくない」
「先輩……」
朔の心臓の音が速くなったのが分かった。それを誤魔化すかのように、朔は頭を撫でてきた。
「でも、なんで絵?」
「絵なら子供でも描けるじゃん。二人で会おうってなるから、さらちゃんをどうしようって考えるんだろ?」
「うーん……ちょっと違うような」
「マジで? 結構良い案だと思ったんだけどな」
他に……他に……。
無い頭で考えてみるが、思いつかない。
「てか、そもそも俺んち門限八時だからさ、夜に会おうなんて無理なんだけど」
「先輩の家、門限とかあるんですね」
「過保護だろ?」
「いえ、良い家族ですね。羨ましいです」
まずい。何とも言えない空気を作りだしてしまった……。
のらりくらり生きてきたツケが、ここでやってきてしまったようだ。もう俺には重すぎて処理しきれない。
「とにかく、寝ようぜ」
「ですね」
朔は、後ろにころんと転がった。俺を抱きしめたまま。
「ちょ、朔。マジで今日は別々に寝るから」
「『今日は』ってことは、明日以降は一緒に寝てくれるんですか?」
「うッ」
揚げ足取りのうまいこと。
朔は目を瞑って静かに言った。
「人って、こんなに温かいんですね」
「さらちゃんの方が温かいだろ?」
「そりゃ温かいですけど……そうじゃなくて、先輩がすっごく悩んでくれてるの分かるから。嬉しくて」
「でも、俺。悩むことしかできなくて……解決策思いつかない」
「そう簡単に見つけ出されたら、俺の人生返せって言いたいですよ」
「確かに……でも、今更だけどズケズケとごめんな」
「……」
「朔?」
顔を上げれば、朔が気持ちよさそうに眠っていた。
「朔も毎日疲れるよな……」
俺はメガネを外して、枕もとにそっと畳んで置いた。
「仕方ない、今日は抱き枕になってやるか」
そう呟いて、俺は朔の腕の中で眠った。
「あの、先輩。今日はありがとうございました」
「いや、むしろこっちが感謝だよ。あんなに母さん達が喜ぶなんて思ってなかったから」
両親は娘が欲しかったのもあり、さらのことを至極可愛がったのだ。見た目も可愛いから、余計にテンションは最高潮だ。今も一緒に寝ると言って離さない。
俺が小学生なら、赤ちゃん返りしていたかもしれない。それくらい、歓迎されている。
そして、さらを取られてしまった朔は、俺の部屋で二人で眠ることになったのだが……。
「俺、布団で寝るから、ベッド使って」
「先輩。一緒に寝ましょう」
「いや、ベッド使って。俺、下で良いから」
「じゃ、布団で一緒に寝ましょう」
「じゃあ、俺がベッドに行くから」
「分かりました。ベッドで二人で寝ましょう」
どっちで寝るか論争に決着がつかない。
「あー、もう! ここは、ベッドをどっちが使うかを遠慮し合いながら決めるとこだろ? なんで一緒に寝る選択肢しかないんだよ!」
「俺たち、結婚するんですよ。一緒に寝ないでどうするんです?」
「結婚って……今日付き合い始めたばっかじゃん」
さすがに重い。
そもそも男同士で結婚はどうやってするのだろうか。
「先輩、事実婚知らないんですか?」
「わ、エスパー? 俺、口に出してないんだけど」
「顔に書いてありました」
そう言われ、ペタペタと口元や頬を触ってみる。すると、フッと笑われた。
「最初から顔に書いてて下さいよ。恋に落ちたなんて知らないから、二回目の十秒チャレンジで、先輩が俺に夢中になる呪い、めっちゃかけたんですよ」
「マジ? 俺、呪われてんのか……」
「ついでに、先輩が熱出した時、顔が不細工になる呪いもかけときました」
「は? 酷ッ」
朔は顔が良いから、少しくらい歪になろうが支障はないかもしれないが、俺はこれ以上不細工になったら困る。
それはさて置き、せっかく念願叶ったのだ。絶対叶わないと思っていた恋心を封印しなくて良いのだ。
俺は真剣な表情になり、改めて朔に向き直る。
「朔」
「やだ」
「やだって、まだ何も言ってないけど」
「そんな真剣な顔して、別れ話以外ないじゃないですか」
想いが通じて欲しい時には、その力は発揮されないようだ。
「そうじゃなくて、俺の絵」
「絵?」
「美術館に飾ってあるんだけど、明後日までで、一緒に見に行って欲しいなって」
「俺が行っても良いんですか?」
朔の目がいつもより大きく開く。その瞳にじっと見られ、俺は照れたように目を逸らす。
「朔と、デートしたい……さらちゃんも一緒で良いから」
「先輩、ギュッてして良いですか」
「ダメ」
膝立ちした朔を警戒するように、俺は枕を抱いて体をやや後ろに反らす。
「先輩……俺のこと嫌いなんですか?」
寂しげな表情になる朔。まるで百面相のように変わる表情は、俺の一言で左右されるらしい。
「好き……だけど、初めてだから……その……」
恐る恐る手を出した。
「手を繋ぐところからお願いします」
既に抱きしめられているし、キスまでされている。鼻で笑われそうだが、近くにいるだけでドキドキが止まらないのだ。今抱きしめられたら、本気で心臓がもたない。
「先輩……犯罪的に可愛いです」
朔が俺の手を握った。そして、引っ張られた。
「わッ、ちょ」
俺は朔の胸にダイブした。
とはいえ、まだ枕でワンクッション置かれている。と思ったのも束の間、枕をスッと抜き取られた。完全に抱き締められてしまった。
「もう、ダメだって言ったじゃん」
「ちゃんと手を繋いでから抱きしめたんで、セーフです」
「なんだよ、その屁理屈」
ムッとしながら言えば、朔の曇った声が落ちてきた。
「でも俺……あの人と同じですね」
「朔。それは違うぞ」
「違わないですよ。絶対に恋に溺れないって決めてたのに、先輩が好きって言ってくれただけで、もう離れたくないって思ってしまったんですよ。嘘でも、突き放すべきなのに……」
「朔……」
「それに、もしも先輩が夜に会いたいって言ってくれたら、俺は多分さらを部屋に置いて先輩に会いに行くと思います。だから、俺はあの人と一緒なんです」
なんと声をかければ朔が救われるのか。
いや、そもそも朔の心は既にズタボロのはずだ。俺の一言で救われるはずがない。それなら、せめて――――。
「朔、今度三人で絵を描こう」
「絵?」
「本来なら、付き合うのやめようって言えば良いんだろうけど、俺だって朔と離れたくない」
「先輩……」
朔の心臓の音が速くなったのが分かった。それを誤魔化すかのように、朔は頭を撫でてきた。
「でも、なんで絵?」
「絵なら子供でも描けるじゃん。二人で会おうってなるから、さらちゃんをどうしようって考えるんだろ?」
「うーん……ちょっと違うような」
「マジで? 結構良い案だと思ったんだけどな」
他に……他に……。
無い頭で考えてみるが、思いつかない。
「てか、そもそも俺んち門限八時だからさ、夜に会おうなんて無理なんだけど」
「先輩の家、門限とかあるんですね」
「過保護だろ?」
「いえ、良い家族ですね。羨ましいです」
まずい。何とも言えない空気を作りだしてしまった……。
のらりくらり生きてきたツケが、ここでやってきてしまったようだ。もう俺には重すぎて処理しきれない。
「とにかく、寝ようぜ」
「ですね」
朔は、後ろにころんと転がった。俺を抱きしめたまま。
「ちょ、朔。マジで今日は別々に寝るから」
「『今日は』ってことは、明日以降は一緒に寝てくれるんですか?」
「うッ」
揚げ足取りのうまいこと。
朔は目を瞑って静かに言った。
「人って、こんなに温かいんですね」
「さらちゃんの方が温かいだろ?」
「そりゃ温かいですけど……そうじゃなくて、先輩がすっごく悩んでくれてるの分かるから。嬉しくて」
「でも、俺。悩むことしかできなくて……解決策思いつかない」
「そう簡単に見つけ出されたら、俺の人生返せって言いたいですよ」
「確かに……でも、今更だけどズケズケとごめんな」
「……」
「朔?」
顔を上げれば、朔が気持ちよさそうに眠っていた。
「朔も毎日疲れるよな……」
俺はメガネを外して、枕もとにそっと畳んで置いた。
「仕方ない、今日は抱き枕になってやるか」
そう呟いて、俺は朔の腕の中で眠った。



