朔のお手製チャーハンは、それはもう美味しかった。
そして、それを食べたさらは、俺の膝の上で眠ってしまった。
「すみません、先輩。布団に連れて行きますね」
朔がさらの脇の辺りを持って抱っこしよう持ち上げた。が、俺のシャツを掴んでいるさらの手の力が強くなった。
「さら」
朔が小声で呼んだが返事はない。それに、寝息も聞こえるので寝ているのだろう。
俺は、さらの頭を撫でながら小声で言った。
「良いよ。このままで」
「でも、先輩だって帰らないと」
「そんなに俺を追い出したいのか」
さらから手を離した朔は、やれやれと俺の横に胡坐をかいて座った。
「俺、他人に迷惑かけるの嫌なんで」
「他人……」
間違ってはいないが、その言葉にチクリと胸が痛む。
暫しの沈黙が流れ、俺はブランド物のバックがある方を眺めた。
「なぁ、朔。聞いて良い?」
「なんですか?」
「朔のお母さんのこと」
空気を読めば聞かない方が良いことなのは百も承知だ。しかし、嫌われている手前、もう何も怖くない。ここまでズカズカと家にまであがりこんだので、この際、俺は朔の家庭に思い切り足を突っ込むことにした。
「何かあるんだろ? 俺が先輩として話を聞くぞ」
「先輩、恐れ知らずですね」
「どうせ誰にも言わずに一人でしょい込んでんだろ? 吐き出せって」
「はぁ……やっぱり家に上げるんじゃなかった」
「フン、追い出すなら、さらちゃんごと追い出すんだな」
「人質とは、最低ですね」
「なんとでも言え」
そう吐き捨てると、朔は諦めたようにポツリと言った。
「俺とさら、父親が違うんですよ」
「え?」
「しかも、俺なんて誰が父親なのかすら分からない。俺の母親、男にだらしがないんです。先輩と同じで」
「は?」
俺と同じ?
いやいやいや、悩みを打ち明け始めた早々に聞き捨てならない発言が聞こえてきたのだが。しかし、せっかく打ち明けてくれる気になったのに、ここで反論すれば、もう何も話してくれなくなるかもしれない。俺は一旦話を聞くことに集中した。
「で?」
「綺麗な人なんで、すぐに男が見つかるんですけど、のめり込みがすごくて。ここにも半年は帰ってきてません」
「は!?」
思わず声が大きくなってしまった。さらを起こさないように、小声に戻す。
「半年って、それネグレクトってやつじゃないのか?」
「そうですよ。だから、昔から児相が入ったりしてました。今は俺も高校生になったんで、何かあれば相談って形にして、自由にさせてもらってます」
「そっか……」
思った以上に朔の闇は深そうだ。
「で、さらちゃんのせいで帰って来ないって?」
「まだ聞きます?」
「聞く」
心底呆れたような顔をされるが、ここまで足を突っ込んだら、最後まで聞く義務があるような気さえしてくる。
「別に母親が帰って来ないのは、さらのせいでも何でもないんですよ。ただ単に、別れる口実に使われるみたいで、その度に『あんたさえいなければ』って、さらに八つ当たりしてるんです」
「酷いな……あ、ごめん。朔のお母さんなのに」
「いえ、事実なので大丈夫です。ろくに働きもしないので国からの支援で生活しているんですけど、そのお金も持ってっちゃうし。ろくな母親じゃないです」
「マジか……」
それなのに俺は、貴重な朔たちの食糧を食べてしまったのか。
「ごめん。吐き出」
「出さないでくださいね。汚いんで」
「……はい」
しゅんと頭を下げれば、朔が冷蔵庫を一瞥した。
「コンビニスイーツ持ってきてくれたんで、大丈夫です」
その言葉に、罪悪感が減った。それはさて置き——。
「でも、そんなんじゃ、人間不信とかになりそうだな」
「なってますよ。だから、俺は恋愛と女が大嫌いです。でも……」
「でも?」
「俺には母の血が流れてるって分かったんです……」
「朔とお母さんは違うだろ」
「いいえ、一緒です」
朔は、儚げにどこか遠くを見た。
「なんでそんなに人を好きになれるのかって、母に聞いたことがあるんです」
「うん」
「そしたら『十秒見つめあってごらん。好きになるから』って言われたんです」
「それって……」
「すみません。俺、女子と見つめ合う気にもなれなくて、先輩で試しました」
そして、何かが吹っ切れたかのように、朔は笑って話す。
「大抵の人は、俺の顔じろじろ見てくるんですけど、先輩って、全く俺の顔見ようとしなかったじゃないですか。何故か後輩の俺に敬語使ってくるし。だから、俺のこと嫌いなのかなって思ったんです」
それは、顔が良すぎて視界に入れると眩しかったからだ。嫌いとかでは、決してない。
「で、ふと母の言葉を思い出して、この人なら母の言い分を覆せるって思ったんです。『やっぱ、そんなの嘘じゃん』って、『俺と母さんは違うんだぞ!』って、言ってやりたかったから」
「朔……」
「でもさ、俺、やっぱあの人の子だった……」
朔は、俺の頬を優しく撫でた。
「どんなに先輩が遊び人だとしても、愛しいって思ってしまう。欲しいって思ってしまうんです」
朔の唇が、俺の唇にそっと重なった——。
そして、それを食べたさらは、俺の膝の上で眠ってしまった。
「すみません、先輩。布団に連れて行きますね」
朔がさらの脇の辺りを持って抱っこしよう持ち上げた。が、俺のシャツを掴んでいるさらの手の力が強くなった。
「さら」
朔が小声で呼んだが返事はない。それに、寝息も聞こえるので寝ているのだろう。
俺は、さらの頭を撫でながら小声で言った。
「良いよ。このままで」
「でも、先輩だって帰らないと」
「そんなに俺を追い出したいのか」
さらから手を離した朔は、やれやれと俺の横に胡坐をかいて座った。
「俺、他人に迷惑かけるの嫌なんで」
「他人……」
間違ってはいないが、その言葉にチクリと胸が痛む。
暫しの沈黙が流れ、俺はブランド物のバックがある方を眺めた。
「なぁ、朔。聞いて良い?」
「なんですか?」
「朔のお母さんのこと」
空気を読めば聞かない方が良いことなのは百も承知だ。しかし、嫌われている手前、もう何も怖くない。ここまでズカズカと家にまであがりこんだので、この際、俺は朔の家庭に思い切り足を突っ込むことにした。
「何かあるんだろ? 俺が先輩として話を聞くぞ」
「先輩、恐れ知らずですね」
「どうせ誰にも言わずに一人でしょい込んでんだろ? 吐き出せって」
「はぁ……やっぱり家に上げるんじゃなかった」
「フン、追い出すなら、さらちゃんごと追い出すんだな」
「人質とは、最低ですね」
「なんとでも言え」
そう吐き捨てると、朔は諦めたようにポツリと言った。
「俺とさら、父親が違うんですよ」
「え?」
「しかも、俺なんて誰が父親なのかすら分からない。俺の母親、男にだらしがないんです。先輩と同じで」
「は?」
俺と同じ?
いやいやいや、悩みを打ち明け始めた早々に聞き捨てならない発言が聞こえてきたのだが。しかし、せっかく打ち明けてくれる気になったのに、ここで反論すれば、もう何も話してくれなくなるかもしれない。俺は一旦話を聞くことに集中した。
「で?」
「綺麗な人なんで、すぐに男が見つかるんですけど、のめり込みがすごくて。ここにも半年は帰ってきてません」
「は!?」
思わず声が大きくなってしまった。さらを起こさないように、小声に戻す。
「半年って、それネグレクトってやつじゃないのか?」
「そうですよ。だから、昔から児相が入ったりしてました。今は俺も高校生になったんで、何かあれば相談って形にして、自由にさせてもらってます」
「そっか……」
思った以上に朔の闇は深そうだ。
「で、さらちゃんのせいで帰って来ないって?」
「まだ聞きます?」
「聞く」
心底呆れたような顔をされるが、ここまで足を突っ込んだら、最後まで聞く義務があるような気さえしてくる。
「別に母親が帰って来ないのは、さらのせいでも何でもないんですよ。ただ単に、別れる口実に使われるみたいで、その度に『あんたさえいなければ』って、さらに八つ当たりしてるんです」
「酷いな……あ、ごめん。朔のお母さんなのに」
「いえ、事実なので大丈夫です。ろくに働きもしないので国からの支援で生活しているんですけど、そのお金も持ってっちゃうし。ろくな母親じゃないです」
「マジか……」
それなのに俺は、貴重な朔たちの食糧を食べてしまったのか。
「ごめん。吐き出」
「出さないでくださいね。汚いんで」
「……はい」
しゅんと頭を下げれば、朔が冷蔵庫を一瞥した。
「コンビニスイーツ持ってきてくれたんで、大丈夫です」
その言葉に、罪悪感が減った。それはさて置き——。
「でも、そんなんじゃ、人間不信とかになりそうだな」
「なってますよ。だから、俺は恋愛と女が大嫌いです。でも……」
「でも?」
「俺には母の血が流れてるって分かったんです……」
「朔とお母さんは違うだろ」
「いいえ、一緒です」
朔は、儚げにどこか遠くを見た。
「なんでそんなに人を好きになれるのかって、母に聞いたことがあるんです」
「うん」
「そしたら『十秒見つめあってごらん。好きになるから』って言われたんです」
「それって……」
「すみません。俺、女子と見つめ合う気にもなれなくて、先輩で試しました」
そして、何かが吹っ切れたかのように、朔は笑って話す。
「大抵の人は、俺の顔じろじろ見てくるんですけど、先輩って、全く俺の顔見ようとしなかったじゃないですか。何故か後輩の俺に敬語使ってくるし。だから、俺のこと嫌いなのかなって思ったんです」
それは、顔が良すぎて視界に入れると眩しかったからだ。嫌いとかでは、決してない。
「で、ふと母の言葉を思い出して、この人なら母の言い分を覆せるって思ったんです。『やっぱ、そんなの嘘じゃん』って、『俺と母さんは違うんだぞ!』って、言ってやりたかったから」
「朔……」
「でもさ、俺、やっぱあの人の子だった……」
朔は、俺の頬を優しく撫でた。
「どんなに先輩が遊び人だとしても、愛しいって思ってしまう。欲しいって思ってしまうんです」
朔の唇が、俺の唇にそっと重なった——。



