年が明けて二週間。正月気分もだいぶ薄れてきた、一月中旬の金曜日。
「失礼しまーす。実玖ちゃんいますか?」
「あっ、はーい!」
窓際で日に当たりながらお弁当を食べていると、ドアの隙間から憧れの先輩がひょっこり顔を覗かせた。
弾んだ声で返事をした友人が席を立ち、満面の笑みで彼の元へ駆け寄っていく。
「先輩っ、お久しぶりですっ」
「久しぶり。はい、お届け物。ピザまんで良かったんだよね?」
「はい! ありがとうございます!」
頬を緩ませる彼女の横顔を一目見て、一口サイズのハンバーグを口に運ぶ。
中学の先輩でもある西尾先輩と、一年の頃からのクラスメイトの清水さん。
去年の秋に交際一年を迎えたみたいだけど、相変わらずラブラブ。ただ話してるだけなのに幸せオーラ満開だ。
「すーがわっ」
「うわぁ! ビックリしたぁー」
すると突然、クラスメイトの才木さんが視界の端からにょきっと顔を出してきた。
「イタズラ成功」とお茶目な笑顔を浮かべた彼女が前方の席に座り、向かい合わせになる。
彼女も一年の頃からのクラスメイトで、清水さんの小学校時代からの友人。
小動物味がある可愛らしい外見だけど、中身は明るく活発。姉御肌でサバサバした性格の持ち主だ。
「また見てたね。今も未練ありとか?」
「さすがにそれはないよ。もう吹っ切れてる」
弁当箱を片づけながら、仲睦まじく話す二人に再度目を向ける。
清水さんと仲良くなったのは一昨年の入学式。席が前後だったことがきっかけだった。
人にも動物にも優しくて、ひたむきに頑張る姿が魅力的で。はじめは尊敬していたのだが、交流が増えるにつれて徐々に恋心を抱き始めた。
といっても俺のことはただのクラスメイトとしてしか見られてなかったから、完全な片想いだったけど。
「ただ、羨ましいなって」
「羨ましい? やきもち焼いちゃうってこと?」
「いやいや。まぁ、最初の頃はたまに妬いてはいたけれど」
自分の席に戻ってピザまんを頬張る彼女を盗み見する。
正直、憧れを抱きながらも嫉妬していた。過ごす時間が少ないにも関わらず、距離の縮め方も接し方も一枚上手だったから。
身を引いたのは、相思相愛だと気づいてから。もう入る隙間はないと悟り、潔く背中を押した。
交際報告された時は胸が締めつけられたけど、今は心の底から応援している。
「なんかさ、好きな人がいるだけでも、何気ない日常も特別に感じるじゃん? それがいいなって」
「あー、わかる。世界がキラキラして見えるよね」
もちろん、友達と過ごすのも特別。自分を取り繕う必要も背伸びする必要もないし、何より安心感がある。
だけど、恋人だとさらにドキドキやときめきが加わる。
片想いの時と両想いの時とでは、感覚も違ってくるだろうからさ。
そう意見して、水筒のお茶を一口飲む。
「ってかさ、ずっと気になってたんだけど……須川の初恋っていつ?」
唐突な質問に思わず目をかっ開いた。危ない、お茶が気管に入るところだった。
「急に、どうしたの」
「須川って、頭も性格も、顔もスタイルも良くてモテる要素だらけなのに、女っ気がないじゃん。彼女もいたことないって言ってたし。だから、実玖以外の人を好きになったことあるのかなーって」
咳き込みしつつ水筒の蓋を閉める。
確かに振り返ると、小中学生時代はスポーツ漬けの日々を過ごしてきた。一度も交際したこともなければ、告白の経験もない。
部活仲間には、『恋愛に興味なさそう』『女の影全然ないよな』って言われ続けてきたっけ。
「もしかして、実玖が初恋?」
「違うよ。清水さんは二人目だよ」
高校生になった今も、あまり恋愛してるイメージがないと言われているけれど……これでも一応、初恋はあった。
今から四年前──もうすぐ五年が経つかな。中学生になって一ヶ月が過ぎた頃だった。
「失礼しまーす。実玖ちゃんいますか?」
「あっ、はーい!」
窓際で日に当たりながらお弁当を食べていると、ドアの隙間から憧れの先輩がひょっこり顔を覗かせた。
弾んだ声で返事をした友人が席を立ち、満面の笑みで彼の元へ駆け寄っていく。
「先輩っ、お久しぶりですっ」
「久しぶり。はい、お届け物。ピザまんで良かったんだよね?」
「はい! ありがとうございます!」
頬を緩ませる彼女の横顔を一目見て、一口サイズのハンバーグを口に運ぶ。
中学の先輩でもある西尾先輩と、一年の頃からのクラスメイトの清水さん。
去年の秋に交際一年を迎えたみたいだけど、相変わらずラブラブ。ただ話してるだけなのに幸せオーラ満開だ。
「すーがわっ」
「うわぁ! ビックリしたぁー」
すると突然、クラスメイトの才木さんが視界の端からにょきっと顔を出してきた。
「イタズラ成功」とお茶目な笑顔を浮かべた彼女が前方の席に座り、向かい合わせになる。
彼女も一年の頃からのクラスメイトで、清水さんの小学校時代からの友人。
小動物味がある可愛らしい外見だけど、中身は明るく活発。姉御肌でサバサバした性格の持ち主だ。
「また見てたね。今も未練ありとか?」
「さすがにそれはないよ。もう吹っ切れてる」
弁当箱を片づけながら、仲睦まじく話す二人に再度目を向ける。
清水さんと仲良くなったのは一昨年の入学式。席が前後だったことがきっかけだった。
人にも動物にも優しくて、ひたむきに頑張る姿が魅力的で。はじめは尊敬していたのだが、交流が増えるにつれて徐々に恋心を抱き始めた。
といっても俺のことはただのクラスメイトとしてしか見られてなかったから、完全な片想いだったけど。
「ただ、羨ましいなって」
「羨ましい? やきもち焼いちゃうってこと?」
「いやいや。まぁ、最初の頃はたまに妬いてはいたけれど」
自分の席に戻ってピザまんを頬張る彼女を盗み見する。
正直、憧れを抱きながらも嫉妬していた。過ごす時間が少ないにも関わらず、距離の縮め方も接し方も一枚上手だったから。
身を引いたのは、相思相愛だと気づいてから。もう入る隙間はないと悟り、潔く背中を押した。
交際報告された時は胸が締めつけられたけど、今は心の底から応援している。
「なんかさ、好きな人がいるだけでも、何気ない日常も特別に感じるじゃん? それがいいなって」
「あー、わかる。世界がキラキラして見えるよね」
もちろん、友達と過ごすのも特別。自分を取り繕う必要も背伸びする必要もないし、何より安心感がある。
だけど、恋人だとさらにドキドキやときめきが加わる。
片想いの時と両想いの時とでは、感覚も違ってくるだろうからさ。
そう意見して、水筒のお茶を一口飲む。
「ってかさ、ずっと気になってたんだけど……須川の初恋っていつ?」
唐突な質問に思わず目をかっ開いた。危ない、お茶が気管に入るところだった。
「急に、どうしたの」
「須川って、頭も性格も、顔もスタイルも良くてモテる要素だらけなのに、女っ気がないじゃん。彼女もいたことないって言ってたし。だから、実玖以外の人を好きになったことあるのかなーって」
咳き込みしつつ水筒の蓋を閉める。
確かに振り返ると、小中学生時代はスポーツ漬けの日々を過ごしてきた。一度も交際したこともなければ、告白の経験もない。
部活仲間には、『恋愛に興味なさそう』『女の影全然ないよな』って言われ続けてきたっけ。
「もしかして、実玖が初恋?」
「違うよ。清水さんは二人目だよ」
高校生になった今も、あまり恋愛してるイメージがないと言われているけれど……これでも一応、初恋はあった。
今から四年前──もうすぐ五年が経つかな。中学生になって一ヶ月が過ぎた頃だった。



