「清水さん! グラフデータ完成しました!」

「私達もエビデンス資料まとめ終わりました!」

「俺も流用資料を今回の資料に合わせて直し終わったよ」

 次々と上がる完了報告に、私の緊張も緩んでいく。

「お疲れ様です……! 本当にありがとうございます! 私の方もこれで資料完成します……!」

「間に合ったー! これで終電前には余裕で帰れそうっすね〜!」

 完成したプレゼン資料を印刷して、クリアファイルに入れる。あとは参加者の人数分の資料を用意したら完了だ。明日の報告に間に合う。

 私はほっと胸を撫で下ろして、手伝ってくれた中村さんと田中さん、同僚と後輩にお礼を言おうとした。



 ――瞬間。



 バチン、と音がしてオフィスが真っ暗闇に包まれた。


「え………………?」


 急な停電に間の抜けた声が漏れる。

 パッ、とすぐに明かりが戻ったが、全員の顔は青ざめている。

「えっ、ちょっ、待って! 皆、データの保存は大丈夫っすか?」

「今、確認中……っ!」

 バタバタと慌てて、それぞれがパソコンを確認する。

「良かったぁ、こっちは大丈夫。残ってるみたい!」

「はぁ〜、焦ったぁ……。僕も大丈夫でした!」

 次々と安堵の声が聞こえる中で、私だけが真っ青な顔で立ち尽くしていた。

(どうしよう……私だけ……保存、出来てない……。何時間も前のデータで止まってる……)

 周囲の音が遠のいていく。

 せっかく、手伝って貰ったのに。
 せっかく、間に合いそうだったのに。

(私のせいで、何もかも……台無しだ)

 きっと、幻滅されてしまう。
 皆が優しくしてくれるから、調子に乗りすぎていたのかな。やっぱり、私には無理だったのかな……。

 調子に乗って指示なんか出しちゃって、皆と談笑しながら残業なんかして、結局空回りして、恥ずかしい……。

「清水さん……? 大丈夫……? もしかして、データ……消えちゃったの……?」

 心配そうに中村さんが私を見つめている。

 言わなくちゃ。
 怖い。
 嫌われたくない。

(私なんかが……調子に乗るからいけないんだ……)

 今まで感じていなかったのに、急に周りの視線を感じて目眩がした。気持ちが悪い。視界がぐらぐらと揺れて、身体がよろける。

(やっぱり、私には無理だったんだ……)

 どちらが床でどちらが天井かも分からなくなって、よろけた私はポケットからスマホを落とした。