「うん、分かってる」
そう伝えても碧斗は俺から目を離さない。
「分かってるけどさ、凪がなんにも気にしてないのは……なんか、悔しいじゃん」
俺だって気にしてたわ!めちゃくちゃ気にしてたから逃げたんだろうが!
碧斗の顔がゆっくりと俺に近づいてくる。
近い、近い、近い!
「碧斗、ちょっと待っ……」
あの花火大会の夜の至近距離の碧斗の顔がフラッシュバックする。
心臓が破裂しそうなくらいドキドキ鳴っていた。
腰が抜けそうになって動けずにいると、碧斗は俺の動揺を完全に見透かしたように低い声で囁いた。
「じゃあ、思い出してよ」
「……っ!」
碧斗の顔がさらに近づく。
あ……これ、本当にキスされる。
俺はもう抵抗もできず、固く目をつぶった。
するとその時。
──ピンポンパンポン。
『石井先生、教員室までお願いします』
放送が屋上に響き渡った。
俺がビックリして目を開けると、碧斗はあと数センチのところで動きを止め、いたずらっぽく笑っていた。


