あの夜。
隼人は最後の言葉を言い放つと俺の前から立ち去っていった。
残されたのは、行き場を失った俺と、ポケットの中で握りしめられたままの小さな箱だけ。
『いつまでも待てるほど俺、大人じゃないから』
たしかにあれは俺が悪かった。
隼人はしっかりと自分の気持ちを伝えてくれているのに、俺は保留にしたまま。
ゆっくりと自分の気持ちに向き合っていきたいなんて言ったけれど、その間隼人にだって恋愛する資格はあるわけで、それを俺が奪っていいわけないんだよな……。
もう少し隼人の気持ちを考えるべきだった。
この日はいつも来ていた隼人からの連絡はなかった。
「……おはようございます」
次の日。
今日は1日フルでバイトが入っている。
バイトを始めてから1カ月が経ち、俺も新人という枠からひとり立ちするようになった。
フルでバイトに入れてもらえることも多くなり稼げるようになったのはいいのだけど……。
隼人、まだ怒ってるよな。
今日も朝の連絡もなかったし……。
重い足取りでバイト先に向かい、バックヤードのドアを開ける。
以前なら、俺が入ればすぐに視線を寄越した隼人は、今はスマホを見たまま顔も上げない。
「……ん」
返ってきたのは、短い返事だけで話しかけにくい。

