「……入ってる!」
講義の合間、スマホの銀行アプリを開いた俺は、画面の前で小さくガッツポーズをした。
通知された残高の数字が、いつもの悲惨な桁数とは違う。
記念すべき、人生初のバイト代の振り込み。
俺は労働の対価という重みを噛み締めながら、学食へと向かった。
「おばちゃん! スペシャルハンバーグ定食、大盛りで!」
「はいよ!」
いつもは素通りしていた高額メニューを、今日は堂々と注文する。
トレイに乗ったジューシーなハンバーグを見ながら、俺はニヤニヤが止まらなかった。
(へへ……この金、何に使おうかな)
ずっと欲しかったスニーカーを買うか、ちょっといい服を買うか。
金に余裕があると、心にも余裕ができるって本当だな。
「お、陽。今日、機嫌いいじゃん」
向かいの席に篠原がドカッと座った。
「分かるか? 俺もついに稼ぐ男になったんでね」
「ウザ。だいたい給料日は大きい顔すんだよみんな。その代わり給料日前は地獄だからな~甘い蜜を吸った人間はもう……昔には戻れない」

