「今日はここで色々教えるから」

「は、はい……」

その無駄のない動き。
隼人のやつ、変わってないな。

「さっそくだけどフロアに出る前に、まずこれを全部覚えて」

渡されたのは、ラミネート加工された分厚いマニュアルだった。

「これ……全部、ですか?」

ブレンドの種類。エスプレッソの抽出方法。
ラテとカプチーノの違い。ドリンクの名前などがずらりと書かれている。

「基本だから。一週間以内に暗記して」

「い、いっしゅうかん……」

隼人はパイプイスに浅く腰掛け、俺がマニュアルをめくるのを無表情で見ている。

なんか気まずい……。
そこでじっと見られてると集中できないんですけど……泣。

俺がチラチラと隼人の方を見ていると。

「なに?」

隼人は表情を変えずに言う。
集中出来ないなんか言えるわけもなく、俺はすんなり引き下がることにした。

「い、いえ……」