「……っ」

俺は隼人に声をかけることもできず、踵を返した。

あいつらが振り返る前に、涙が溢れてくるのを堪えるように、俺はパンを握りしめたまま教室を走って逃げ出した。

それから俺は、露骨に隼人を避けるようになった。

「陽、帰ろうぜ」

放課後、隼人がいつものように俺の机に来ても、俺はカバンを掴んで立ち上がる。

「……悪い。今日、部活のミーティングあるから」
「え?今日オフだろ?」
「急に入ったんだよ」

目を合わせずに早口でまくしたて、俺は逃げるように教室を出る。
お昼に誘われても教室移動に誘われても、俺は徹底して理由を作って逃げた。

学校で視線を感じても気づかないフリをして、隼人がこっちに来そうになったらわざと別の友人の輪に入り込んで、隼人が入り込めないように壁を作る。

【陽、俺なにかした?】

そして送られてくるメッセージには返事をしなかった。

俺は隼人に真実を伝えられるのが怖かったのかもしれない。
こんなことしても意味ないと分かっているのに……俺は隼人から逃げることしか出来なかった。