「……陽?」
放課後の誰もいない教室。
上の空で考え事をしていた俺の頬に温かい手が触れた。
俺はせっかく隼人とふたりきりの時間を過ごしていたのに、ぼーっとしていたみたいだ。
「え……」
顔を上げると、心配そうな隼人の顔があった。
「なんか今日、元気ないな」
「そ、そうか? 普通だろ」
「嘘つけ」
隼人は優しく笑うと、俺の顔を覗き込み、そっと唇を重ねてきた。
「……ん」
触れるだけの優しいキス。
唇から伝わる温度は、ウソをついているようには思えないほど温かった。
「はや、と……」
「ごめん。キス……しちゃった」
隼人は恥ずかしそうに頬を染めている。
こんな表情がウソだなんて到底思えない。
「嫌だったかな?」
隼人の言葉にぶんぶんと首を振った。
好き。
隼人が好きだ。
心臓がうるさすぎて、落ち着かない。
あんなの、ただの僻みだ。
誰かが変なウワサを流し出したに決まってる。
俺は隼人を信じる。
隼人のこの表情を。
そう心に決めた。

