「今日は在庫の検品の仕方を教えるから」
「あ、うん。分かった」
「検品しながら豆の種類を覚えて」
「はい!」
隼人に教わりながら検品作業をしていく。
「次これ」
「おう」
(……なんだ。意外と普通じゃん)
あんなことを言ったから、もっと気まずくなるかと思ったけど、隼人は淡々と仕事をこなしている。
ま、そうだよな……。
俺たちは昔付き合っていたってだけで、今はただのバイトの先輩と後輩。
そんな相手に何か言われたくらいで、いちいち気にしたりしないか。
まだ開店前のバックヤード。
俺たちは並んで棚の商品を数え始めた。
「あ、ここの豆の袋、数足りなくね?」
「どれ?」
俺が指差した棚の奥を覗き込もうと、隼人が身を乗り出す。
その時。
棚にある同じ袋を取ろうとして、俺と隼人の手が偶然触れ合った。
「……っ!」
ビクッと俺の肩が跳ねる。
「わ、悪い……」
いやいや過剰に反応すんな俺……。
隼人は目を逸らし、スッと素早く手を引っ込めた。
心臓がドキドキとうるさい。
なんだよ……。
これじゃあ意識してるのは俺の方じゃねぇか。
友達でも特別な関係でもないなんて言い放っておいて、こんなに意識して……俺、何してんだよ。
気まずい沈黙が、俺たちの間に重くのしかかる。
それからは、お互い必要最低限のこと以外、一言も口を利かずに作業を続けた。

