(帰ろう……)

「お先に失礼します」

俺はみんなにそう言うと、逃げるようにバックヤードのドアを押した。
ムワッとした、五月の夜の空気が肌にまとわりつく。

「あちー……」

パタパタとTシャツであおぎながら歩いていると。

「陽!」

背後から、よく知った低い声が飛んできた。
隼人だ。

隼人がカバンを肩にかけ、息を切らしながらこっちに駆け寄ってくる。

なんで……?
隼人は、飲み会に行くんじゃないのか。

「……なに?」
「一緒に帰ろうと思って」
「……飲み会は?」

「陽が行かないなら、俺もいい」
「なんでだよ」

意味がわからない。
俺が行かないのとお前が行かないのは、関係ないだろ……。

「みんな隼人が来るの、楽しみにしてたじゃん。行けば?」

女子たちに囲まれていたあの光景がフラッシュバックする。
あそこがお前の居場所だろ。

「陽といたいから」

静かな裏路地に隼人の声が、やけにはっきりと響いた。