俺はそれに気づかず、ツルッと足を滑らせた。

「うおっ!?」

体がうしろに倒れていく。

「危ない!」

隼人が俺に気づいてとっさに俺のことを片腕で支えた。

あぶな、かった……。
隼人が支えてくれたお陰で尻持ちを付かずに済んだ。

「……す、すまん!」

俺が顔をあげると、すぐ近くに隼人の顔がある。

──ドキン。

心臓が、耳元で鳴っているみたいにうるさい。
俺の腰を支える隼人の腕。
あいつの匂いと体温が一気に流れ込んでくる。

「……ったく、てんぱりすぎ」

もうううううう!!
なんか俺まだ好きみてぇじゃねぇか!
ムカつく。
もう嫌いになったのに……。
隼人のことなんかどうでもよくなったのに!なんで今更思い出しちまうんだよ。

『……なあ、陽。……俺たち、もう無理かもね』

高校2年生の冬。
俺たちは別れた。

別れを告げてきたのは、あいつの方からだった。
無理かもね、なんて言われてしまったら断ることも出来なくて……元々モテモテだった隼人と俺は釣り合わなかったんだと思うことにした。

それからウワサが出回って隼人は色んな人と遊んでいるらしいって知って、俺も遊びのひとつだったんだと知った。
あっちは遊びだった。

だからこっちも深く考える必要なんてない。