「……こんな感じ」

スチームが止まる。
俺は大きく息を吐き出し、全身の力が抜けるのを感じた。

「なんでもう疲れてるの?」

隼人が不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる。

(だ、誰のせいだと思ってるんだよ……!)

お前が後ろから抱き込むみたいにして教えるからだろ!
心臓がうるさすぎて、ミルクの泡立ち具合なんて全然見えてなかったっつーの。

「き、緊張すんだよ! マシン触るの初めてだし……」

俺は誤魔化すように言った。

「ふーん。力入りすぎなんだよ」

隼人はようやく俺の背後から離れると告げる。

「……次は在庫確認のやり方を教えるから」

隼人はそう言って、俺たちの後ろにあったストック棚に向き直った。
そこは、コーヒー豆やシロップが山積みになっている。

俺も隼人の後を追うように、棚を見上げる。
隼人が、一番上の棚にあるファイルに手を伸ばす。

背伸びした拍子にあいつのシャツが少しだけ捲れて、腰が見えた。

ヤベ、なんか見ちゃいけないものを……。
俺が慌てて視線を逸らした、その時だった。

「わっ……!」

さっきのスチーム練習で、床に少しミルクが飛び散っていたらしい。