よし……レジよりは距離が取れるはずだ!
「まず、スチームミルク。これはラテに使うやつ」
隼人はそう言って、ステンレス製のピッチャーに牛乳を注ぐ。
その手つきは、滑らかで手際がいい。
さすが高二の終わりからやってるだけあるな……。
「こんな感じ、やってみて」
「お、おう」
ピッチャーを渡される。
俺は隼人の真似をして、マシンのノズルにピッチャーを当てた。
難しいな……。
「こう?」
「ノズルの角度が違う。もっと深く」
「えっと、こんなかんじ……?」
「違う。……貸して」
ため息混じりに、隼人が俺の右側に回り込む。
そして。
俺がピッチャーを握る右手の上から、あいつの左手が重ねられた。
「……っ!」
「力抜いて、優しくやるんだ」
がっちり掴まれた手が、金属の冷たさ越しに隼人の体温で熱くなっていく。
な、なんか……全然集中できねぇ!
「スチームはこう……」
隼人は俺の手を握ったままノズルを操作する。
ゴオオオ、とけたたましい音を立てて、ミルクが泡立ち始めた。
元カレに後ろから抱き込まれるようにして仕事を教わるなんて、どんな苦行だよ。
俺は真っ赤になりそうな顔を必死に伏せ、早くこの時間が終わってくれと願うしかなかった。

