俺の右肩越しに、隼人の左腕が伸びてくる。
指が、俺の手の上から覆いかぶさるようにして、パネルの「ラテ」の項目をタッチした。

耳元で、低い声が響く。

「……っ!?」

なんだこの体勢。
な、なんか……近くねぇか!?

「……次。会計ボタン」

「は、はい……っ!」

腕が離れていく。
俺は言われた通り「会計」のボタンを押した。

ジジ、と練習用のレシートが印刷される音がする。

「……よし」

俺が緊張から解放されて、ふうと息をついた瞬間。
背後から、隼人が顔を出して言った。

「……できるじゃん」
「え?」

見上げると。
そこには、ほんの少しだけ口元を緩めた隼人がいた。

──ドキン。
俺は、思わず視線を逸らす。

(なんだよ、それ)

久しぶりにみた……隼人が笑った顔。
隼人から笑いかけられると俺の心臓が決まってドキっと音をたてたっけ……。

「……次。ドリンク作成」

隼人はなにも気にしていないみたいに淡々と告げた。

「ドリンク……。マシン、触れるのか」
「当たり前だろ。見てるだけじゃ覚えられない」

隼人が練習用のレジから離れ、バックヤードの隅にあるフロアと同じ型のエスプレッソマシンを指差す。