「……ん、できた」
「あ、ありがと……」
隼人は何事もなかったかのように俺から離れると、手元のマニュアルを指差した。
「じゃあレジ打ち教えていくから」
練習とはいえ、はじめてレジを触るからちょっと緊張する。
俺の隣にピタリと隼人が立つ。
ち、近いな……。
肩が触れそうだ。
「客が来たら、まずいらっしゃいませ。笑顔」
「え、笑顔……こう?」
にやっと笑って見せると、隼人に奇妙な顔をされる。
「まぁ……それでいいなら」
しかしそれ以上なにも言われなかった。
なんだよ!文句があるならなんか言えよな……!
「じゃあ客が来たと仮定して注文とってもらうから。まずはラテのトール、ホットひとつ」
「い、いらっしゃいませ!」
俺は教わった通り、タッチパネルのレジ画面を押す。
ええと、ラテは……どこだ?
ドリンクのカテゴリーが多すぎて、パニックになる。
「……ここ」
その瞬間、背後からふわりと隼人の匂いがした。
コーヒーとあいつの使ってる柔軟剤の匂い。
懐かしい匂いだ……。
って、なに思い出してんだよ!今は仕事だろ!

