「お願いします!」

俺は気合を入れて、ビシッと背筋を伸ばした。
身だしなみも完璧、準備万端……のつもりだったが、隼人の視線が俺の腰のあたりで止まっている。

「……な、なんだよ?」

「……お前、それ」

隼人は呆れたようにため息をつくと、スッと俺の背後に回り込んできた。

「え、わっ……!?」

不意に背中に気配が近づき、俺はビクッと肩を震わせる。

「じっとして」

低い声がすぐ後ろでして、腰に回したエプロンの紐がグイッと引っ張られた。

「前も思ったけど、結び目、ぐちゃぐちゃ。固結びになってるぞ」

「うそ!? ちゃんと蝶々結びにしたつもりだったのに……」

「どこがだよ」

隼人の指先が、俺の腰元で器用に紐を解いていく。
見えない背後で、あいつの手が動くたびにわずかに指が腰に触れる。

普通の距離、普通の距離……。

そう自分に言い聞かせるが、俺はされるがままカチコチに固まって棒立ちになるしかなかった。

シュルッと衣擦れの音がして、あっという間に背中の紐がキュッと締め直された。