俺が戸惑っていると、隼人はハッキリと言う。

「俺たちは友達として一緒にいたわけじゃない」

まるで間違いを訂正するかのようにきっぱりと言い放った。

「な、なんだよ……急に」

俺は動揺して隼人の手を振り払った。
そしてまた俺たちの間に気まずい空気が流れる。

せっかく当たり障りなく、友達としてって言ったのに。

空気をわざわざぶった切ることないだろ……。

すると、隼人は我に返ったようにはっとして手を降ろした。

「ごめん……会えて良かったよ、それじゃあ」

隼人はそれだけ言うと、俺に背を向けた。

呼び止める間もなく、あいつは逃げるように走り出した。

すぐに雑踏に紛れていく、見慣れたあいつの背中。
俺は、掴まれた腕に残る熱を感じながら、その場に立ち尽くした。

(……なんだよ、あいつ)

走り去っていく隼人の背中が、やけに小さく見えた。


「友達じゃなかった、か……」

あいつのせいで、またかき乱される。
せっかく忘れたのに、戻ってきそうな感情を俺は必死に押し込めるしかなかった。