ハッとした。
俺は隼人に今の気持ちをちゃんと伝えたか?
保留にしたいとだけ伝えて、そこから……どうして待ってほしいと思っていたかとか、今の率直な気持ちとか一度も伝えていない。
ずっと、自分の気持ちを隠そうとしてきたんだ。
「俺……もう一回渡してみる!ちゃんと話してみるよ!」
「うん、頑張って!」
桜ちゃんの真っ直ぐな応援に俺は袖で目元を拭った。
俺はクッキーを再びカバンに押し込むと、強く握りしめた。
授業が終わり、大学を出てバイト先に向かう頃には、空は真っ暗になっていた。
今、雨は降っていないが嵐の前の静けさといった感じで大雨になりそうな空をしている。
「広瀬くん、よく来てくれたね〜」
バックヤードでエプロンを締めながら、先にシフトに入っていた美咲さんと挨拶を交わす。
「俺は家近いんで……あと大学も行ってましたし」
「そうなんだ。店長は遠くから来てるんだけど、電車止まっちゃって今日来れないらしいよ」
「マジすか!」
その日のシフトは、閉店まで隼人と俺、それと美咲さんを含めた先輩二人の計四人だった。
雨のせいか客足はほとんどなく、外では風も強くなってきて、店の窓ガラスがガタガタと音を立て始める。
「あっ、降って来たね」
風と共に雨が降ってきた。

