大型連休の浮かれた空気が、五月の湿気を含んだ風に溶けていく。
大学のキャンパスには、春先の熱に浮かされたような騒がしさはもうない。

講義室を移動する集団。
中庭でノートを広げる先輩たち、学食が並ぶ食堂。
その風景の一部に、俺もようやく馴染めてきた頃だ。

俺の名前は広瀬 陽(ひろせ あき)
都内の私立大学、文学部に通うピカピカの一年生。
……とは言っても、入学式からもう一ヶ月半が過ぎたんだけどな。

「陽~。今日の放課後、新歓の二次会、顔出すだろ?」

「あ、うん。たぶん」

友達だって出来た。
昼休みの食堂で同じテニスサークルに入ったヤツらと話をする。

テニスサークルに入ると決めたのは 「大学デビュー」と言えば、やっぱりテニサーだろうという安直な考えの元……。
そんな理由で選んだサークルは、まだ先輩たちのノリにはついていけない時もあるけど、これが「青春」ってヤツなんだと思う。

俺は大学進学をきっかけに実家を出てワンルームで一人暮らしを始めた。

頑張れば通えない距離ではないんだけど、2時間弱くらいかかることもあり、人生経験として一度家に出るのもいいんじゃないかと親に提案された。