さてさて。今の話、君はどう思ったかな。
 
 ふむ。
 吾輩にとって、あの日々はただの出来事ではないのだ。
 人の命がどのように灯り、どのように消えていくのか。そのすべてを、目で追い、鼻で確かめ、心で受け取った貴重な時間だった。

 そうだな。君もいつか、どこかで同じような香りに触れる日が来るだろう。
 そのときは、今日の話を思い出してくれればいい。無理に理解する必要はない。
 ただ、そこに在ったものを覚えていてくれれば、それでいいのだ。

 ところで、君。
 そろそろ吾輩の名前は決まった──
 
 ──おっと。
 君が吾輩の名前を思案している間に、どうやら別の誰かが吾輩を呼んでいたらしい。
 決して、君との無駄話に夢中になっていたわけではない。

 とまあ、これでしばしお別れだ。

 いつか君が本当に立ち止まりそうになったとき。
 もしかしたら、吾輩はまたふらりと君の前に現れるかもしれないし、現れないかもしれない。

 だが、もし姿を見せたなら──そのときは、君の『幸福の匂い』をぜひ頂戴するとしよう。

 自由すぎる?
 それは当然だとも。

 なぜなら、吾輩は気まぐれな猫なのだから。