いつの間にか寝てしまい、スマホの着信ベルに起こされた。
良樹の名前が表示されている。
「晴矢、今家か?」
「うん。ちょっと寝ていた。良樹は今どこ?」
「お前の家の前」
俺は寝ぼけているのかと思った。
良樹が俺の家の前に居る?
俺は二階の自分の部屋の窓から門の方を見る。
確かに大荷物の良樹が立っていた。
二階から駆け降りると玄関のドアを開け、門まで走った。
「ど、どうしたんだよ、急に」
良樹は俺を見ると安心したように笑った。
「お前に会いたくて、来ちゃった」
そこには尻尾を思いっきり振っているゴールデン・レトリバーがいた。
🔸🔸🔸
「何か飲むか?コーラでいい?」
「うん」
合宿帰りにそのまま家に来たという。
良樹はあの画像を俺が見たことを知っていて、わざわざ来たのだろうか?
「久しぶりだなー晴矢の家」
「そうだよ。夏練の時からお前来なくなったし」
コーラのペットボトルの蓋をあけて美味そうに飲む良樹。
よっぽど喉が渇いていたのか。
「ウマー」
「そんなに急いで来たの?」
「うん。お前に早く会いたくて」
素直に口にする良樹を疑えるはずが無かった。
だから俺も素直に自分の気持ちを口にするべきだと思った。
「俺の部屋行こう」
俺はリビングのソファから立ち上がり二階に向かう。
良樹も荷物を持って着いてくる。
「この部屋も久々だ。相変わらず広いなー。二人とかで暮らせそう」
良樹は二人用のソファに座る。
二人用のはずなのに良樹が座ると一人分のスペースが狭くなるのが難だ。
「やっぱりお前、去年より絶対デカくなっている。俺が座るスペースほぼ無いもん」
「そうかな?じゃ、この下に座る」
良樹はソファから降りると床に座りソファを背もたれ代わりにした。
俺が良樹の隣に座るとすぐに肩に手を回し、俺の顔を覗き込む。
「何日ぶりだろ。晴矢の顔見たの」
俺も良樹の顔を見る。かなり日焼けしているせいかより男らしくなっている。
ふいにさっき見た画像が思い浮かび、思わず顔を背けてしまった。
「なに?どうかしたか?」
「別に……近いなって思って」
俺の不自然な態度を不思議に思ったのか、俺の顔をじっと見つめている。
「何かあった?」
俺は隠しておきたくなくて、口にする。
「R校の女の子のこと、ブチから聞いた。画像見た。なんだか楽しそうだった」
思ったことをそのまま口にしてしまい、AIが話しているみたいな不自然な感じになってしまった。
「R校の子?画像ってなんだよ」
良樹の声が少し不機嫌に感じる。
俺はLINEの画像を見せた。
「ブチが送ってきた。ブチに良樹の事を紹介して欲しいって頼まれたみたい。でも昨日繋がれましたって」
良樹は黙って画像に見入っている。
俺は何かを言って欲しかった。
「で、晴矢はこれを見てどう思った?」
「どうって、楽しそうだなって。俺以外にも良樹はこの笑顔を向けるのかって思った」
本当の気持ちを伝えた。
俺以外には向けて欲しくなかったから。
「向けられて悔しい?」
「く、悔しいとかじゃなくて……。どういうことなのかなって……良樹の心の中まではわからないよ」
「嫉妬したわけじゃないんだ」
「嫉妬って。そりゃ、面白くはないけど」
良樹はまだ画像を見ていた。
「もういいよ」
俺は無理やりスマホを取り上げたが、良樹がその手を掴んだ。
「俺は嫌だよ。晴矢に誤解されたままなのは」
「誤解なんてしていないよ。ただ……」
「ただ何だよ?何かあるからわざわざこの画像を俺に見せたんだろ?面白くないから俺に聞いたんだろ?違うのか?」
「俺は……良樹の事信じているから。でも他の人に対してこの笑顔を向けて欲しくなかったってこと!」
良樹は俺が珍しく声を荒げているのに驚くが、納得したような顔で話し始めた。
「俺がこの笑顔を向けるのはお前だけだよ。この時、この子がお前の名前を出した。あの人もバスケ上手ですよねって。お前の名前が出た瞬間、無意識でこの笑顔が出たのかな。それをこんな風に撮られていたとか超恥ずかしい」
「え……俺の名前で?」
この笑顔はこの子に向けたものではなく、俺の名前を聞いて出た笑顔ってことなのか?
「条件反射が過ぎるな……自分でも恥ずかしい」
俺はその言葉が嬉し過ぎて恥ずかしがっている良樹をじっと見つめていた。
「晴矢、そんなに見るなよ。恥ずかしいよ」
「いつも俺のこともっと見ているぞ、お前」
つい嬉しくてイジりたくなる。
「で、満足した?俺の答え」
良樹は俺の身体に腕を回す。俺は良樹に抱っこされているような状態になった。
「うん。大満足」
「っていうか、疑っていたってことだよな……俺がその女の子と浮気するみたいな?」
「信じていたって言っただろ」
良樹は微笑むとチュッと音を立てて俺にキスをした。
「可愛いな、晴矢は。こんな可愛い恋人がいるのに他に気持ちがいくわけないじゃん」
良樹は何回もキスをする。
「ちょっと止めて。ホントにワンコだな、お前。嬉しくなると舌でペロペロ舐めるのと一緒」
「なんでだよ、好きなんだからいいじゃん。それに何日ぶりに会ったと思っているんだよ」
確かに。俺も寂しい、寂しいと嘆いていたことを忘れるところだった。
「ずっと家に寄り付かなかったくせに……」
「……」
俺の問いには答えない。
「毎日放課後家に寄っていけばいいのに……」
良樹は俺に回していた腕を離すと、横並びに座りなおした。
「なに?」
珍しく良樹が下を向いてモジモジしている。
「……自信がなかったから」
「自信って何の?」
いつもハッキリと言葉にする良樹には珍しく言葉が途切れる。
「……自分の欲求を止められる自信」
「欲求って?あっ……」
良樹が何を伝えたかったのかがわかった。
俺は……
「……晴矢は嫌だろ?その……覚悟というか」
「……」
「好きだから、お前の事を大切にしたくて。だから、俺だけの気持ちだけで押し通していいとは全然思っていなくて。でも……やっぱり我慢できない時もあって。だから……」
良樹の言葉から、葛藤していることが伝わってくる。
俺は……
「なんか、支離滅裂で訳わからなくなりそうだから帰るよ」
立ち上がろうとする良樹の腕を掴む。
「帰らないで。俺は良樹と……いいよ」
「……ホントに?」
不安そうな目を向ける良樹に微笑んで頷く。
良樹を愛しているから。
俺を好きにしていいよ。
良樹は安心した顔で俺を強く抱きしめた。
良樹の名前が表示されている。
「晴矢、今家か?」
「うん。ちょっと寝ていた。良樹は今どこ?」
「お前の家の前」
俺は寝ぼけているのかと思った。
良樹が俺の家の前に居る?
俺は二階の自分の部屋の窓から門の方を見る。
確かに大荷物の良樹が立っていた。
二階から駆け降りると玄関のドアを開け、門まで走った。
「ど、どうしたんだよ、急に」
良樹は俺を見ると安心したように笑った。
「お前に会いたくて、来ちゃった」
そこには尻尾を思いっきり振っているゴールデン・レトリバーがいた。
🔸🔸🔸
「何か飲むか?コーラでいい?」
「うん」
合宿帰りにそのまま家に来たという。
良樹はあの画像を俺が見たことを知っていて、わざわざ来たのだろうか?
「久しぶりだなー晴矢の家」
「そうだよ。夏練の時からお前来なくなったし」
コーラのペットボトルの蓋をあけて美味そうに飲む良樹。
よっぽど喉が渇いていたのか。
「ウマー」
「そんなに急いで来たの?」
「うん。お前に早く会いたくて」
素直に口にする良樹を疑えるはずが無かった。
だから俺も素直に自分の気持ちを口にするべきだと思った。
「俺の部屋行こう」
俺はリビングのソファから立ち上がり二階に向かう。
良樹も荷物を持って着いてくる。
「この部屋も久々だ。相変わらず広いなー。二人とかで暮らせそう」
良樹は二人用のソファに座る。
二人用のはずなのに良樹が座ると一人分のスペースが狭くなるのが難だ。
「やっぱりお前、去年より絶対デカくなっている。俺が座るスペースほぼ無いもん」
「そうかな?じゃ、この下に座る」
良樹はソファから降りると床に座りソファを背もたれ代わりにした。
俺が良樹の隣に座るとすぐに肩に手を回し、俺の顔を覗き込む。
「何日ぶりだろ。晴矢の顔見たの」
俺も良樹の顔を見る。かなり日焼けしているせいかより男らしくなっている。
ふいにさっき見た画像が思い浮かび、思わず顔を背けてしまった。
「なに?どうかしたか?」
「別に……近いなって思って」
俺の不自然な態度を不思議に思ったのか、俺の顔をじっと見つめている。
「何かあった?」
俺は隠しておきたくなくて、口にする。
「R校の女の子のこと、ブチから聞いた。画像見た。なんだか楽しそうだった」
思ったことをそのまま口にしてしまい、AIが話しているみたいな不自然な感じになってしまった。
「R校の子?画像ってなんだよ」
良樹の声が少し不機嫌に感じる。
俺はLINEの画像を見せた。
「ブチが送ってきた。ブチに良樹の事を紹介して欲しいって頼まれたみたい。でも昨日繋がれましたって」
良樹は黙って画像に見入っている。
俺は何かを言って欲しかった。
「で、晴矢はこれを見てどう思った?」
「どうって、楽しそうだなって。俺以外にも良樹はこの笑顔を向けるのかって思った」
本当の気持ちを伝えた。
俺以外には向けて欲しくなかったから。
「向けられて悔しい?」
「く、悔しいとかじゃなくて……。どういうことなのかなって……良樹の心の中まではわからないよ」
「嫉妬したわけじゃないんだ」
「嫉妬って。そりゃ、面白くはないけど」
良樹はまだ画像を見ていた。
「もういいよ」
俺は無理やりスマホを取り上げたが、良樹がその手を掴んだ。
「俺は嫌だよ。晴矢に誤解されたままなのは」
「誤解なんてしていないよ。ただ……」
「ただ何だよ?何かあるからわざわざこの画像を俺に見せたんだろ?面白くないから俺に聞いたんだろ?違うのか?」
「俺は……良樹の事信じているから。でも他の人に対してこの笑顔を向けて欲しくなかったってこと!」
良樹は俺が珍しく声を荒げているのに驚くが、納得したような顔で話し始めた。
「俺がこの笑顔を向けるのはお前だけだよ。この時、この子がお前の名前を出した。あの人もバスケ上手ですよねって。お前の名前が出た瞬間、無意識でこの笑顔が出たのかな。それをこんな風に撮られていたとか超恥ずかしい」
「え……俺の名前で?」
この笑顔はこの子に向けたものではなく、俺の名前を聞いて出た笑顔ってことなのか?
「条件反射が過ぎるな……自分でも恥ずかしい」
俺はその言葉が嬉し過ぎて恥ずかしがっている良樹をじっと見つめていた。
「晴矢、そんなに見るなよ。恥ずかしいよ」
「いつも俺のこともっと見ているぞ、お前」
つい嬉しくてイジりたくなる。
「で、満足した?俺の答え」
良樹は俺の身体に腕を回す。俺は良樹に抱っこされているような状態になった。
「うん。大満足」
「っていうか、疑っていたってことだよな……俺がその女の子と浮気するみたいな?」
「信じていたって言っただろ」
良樹は微笑むとチュッと音を立てて俺にキスをした。
「可愛いな、晴矢は。こんな可愛い恋人がいるのに他に気持ちがいくわけないじゃん」
良樹は何回もキスをする。
「ちょっと止めて。ホントにワンコだな、お前。嬉しくなると舌でペロペロ舐めるのと一緒」
「なんでだよ、好きなんだからいいじゃん。それに何日ぶりに会ったと思っているんだよ」
確かに。俺も寂しい、寂しいと嘆いていたことを忘れるところだった。
「ずっと家に寄り付かなかったくせに……」
「……」
俺の問いには答えない。
「毎日放課後家に寄っていけばいいのに……」
良樹は俺に回していた腕を離すと、横並びに座りなおした。
「なに?」
珍しく良樹が下を向いてモジモジしている。
「……自信がなかったから」
「自信って何の?」
いつもハッキリと言葉にする良樹には珍しく言葉が途切れる。
「……自分の欲求を止められる自信」
「欲求って?あっ……」
良樹が何を伝えたかったのかがわかった。
俺は……
「……晴矢は嫌だろ?その……覚悟というか」
「……」
「好きだから、お前の事を大切にしたくて。だから、俺だけの気持ちだけで押し通していいとは全然思っていなくて。でも……やっぱり我慢できない時もあって。だから……」
良樹の言葉から、葛藤していることが伝わってくる。
俺は……
「なんか、支離滅裂で訳わからなくなりそうだから帰るよ」
立ち上がろうとする良樹の腕を掴む。
「帰らないで。俺は良樹と……いいよ」
「……ホントに?」
不安そうな目を向ける良樹に微笑んで頷く。
良樹を愛しているから。
俺を好きにしていいよ。
良樹は安心した顔で俺を強く抱きしめた。

