「ソフトを起動しただけで、なんでプロジェクターが動くんだ?」
「不思議ですよね。仕上がったシネマトグラフじゃないのに」
不思議に思っていると、撮影スタジオの空間が歪んだ。
俺はプロジェクターの先の空間に、手を伸ばした。
歪んだ場所に手を突っ込むと、画像が荒れて一瞬、ノイズが走った。
「ここに画像投影してる? 透明な……背景? でも、統合してない。二枚あるよな」
「そうなんです。多分それ、素材っていうか、統合していない背景写真なんです。本当は何か映っているはずで」
圭吾の手元のパソコン画面を覗き込んだ。
数枚のレイヤーが画面の右端に並んでいる。
「絵が投影されないのは、加工してないからか。シネマトグラフの形式に圧縮してないんだ」
3Dシネマトグラフの写真は、素材のままだと空間に投影しても何も映らない。
例え一枚でも画像として立体の層に書き換えて統合し、既定のフォーマットに圧縮する必要がある。
その辺りは写真をJPEGで保存したり、動画をMP4に変換するのと同じだ。3Dシネマトグラフには、CMGという専門のファイル形式がある。
「そこに映し出されているのは、多分、一番後ろの二枚かなと思うんですけど」
圭吾が指さしたのは、朱色の空に神々しく輝く夕日だ。
その手前は、藤棚の写真っぽい。樹上から濃淡様々な藤の花が咲き垂れる様は見事だ。
「何回も試しているんですけど、空間から消えないんですよね」
圭吾がしきりにマウスをカチカチしている。
確かに消えない。
なるほど、と思った。空間に浮かぶ透明レイヤーをパソコンの中から探したのなら、大変だったろう。
「んー、まぁ、出たまんまでも作業はできるけどな。統合すれば自然と消えるだろうし。けど、この二枚だけじゃないよなぁ、多分」
パソコンの右端に表示されているレイヤーは、少なくとも五枚ある。
メインになる写真が五枚、という意味なんだろう。
藤棚と夕日以外の三枚は、白紙レイヤーのままだ。
それ以外にも数枚のレイヤーがあるが、光や色味など細かい調整のための素材写真に見える。
きっと補正や装飾用のサブレイヤーだろう。
「残り三枚は、カメラの中に写真が残ったままなんじゃないか? 背景だけ取り急ぎ作った、とか?」
自分で言って、疑問に思った。
「これって、誰が作ったんだ?」
「わからないんです。浅沼先輩に聞いても、知らないって言われて。俺ではないから、去年までいた人ってことになるんですが」
「なら、機材一式を寄贈していった朝陽さん?」
「そうかもしれないけど、去年までは写真部って、部員がたくさんいたらしいので」
「言われてみれば、そうだな」
高校入学当時、朝陽の誘いを断った理由の一つが、部員の多さだった。
また変なやっかみをされるのが面倒だった。幼稚なやっかみは技術の足を引っ張る。作りたい3Dシネマトグラフが作れないのが、嫌だった。
(実際、先輩も面倒な目に遭っていたらしいし。あの人でも何かされるんなら、俺なんかもっと酷い目に遭う)
実力があって人望も厚く、頼もしい先輩として好かれていた榛葉朝陽でさえ、一部の部員からは嫉妬で作品を壊されていたと聞く。
(朝陽さんがいなくなって、そういう奴らが残るのかと思ったけど、逆に蜘蛛の子を散らすように辞めたな)
よく考えたら不思議だ。
カリスマがいなくなって、立派な機材だけ置いていってくれたのだから。好き勝手出来る環境が整っただろうに。
「不思議ですよね。仕上がったシネマトグラフじゃないのに」
不思議に思っていると、撮影スタジオの空間が歪んだ。
俺はプロジェクターの先の空間に、手を伸ばした。
歪んだ場所に手を突っ込むと、画像が荒れて一瞬、ノイズが走った。
「ここに画像投影してる? 透明な……背景? でも、統合してない。二枚あるよな」
「そうなんです。多分それ、素材っていうか、統合していない背景写真なんです。本当は何か映っているはずで」
圭吾の手元のパソコン画面を覗き込んだ。
数枚のレイヤーが画面の右端に並んでいる。
「絵が投影されないのは、加工してないからか。シネマトグラフの形式に圧縮してないんだ」
3Dシネマトグラフの写真は、素材のままだと空間に投影しても何も映らない。
例え一枚でも画像として立体の層に書き換えて統合し、既定のフォーマットに圧縮する必要がある。
その辺りは写真をJPEGで保存したり、動画をMP4に変換するのと同じだ。3Dシネマトグラフには、CMGという専門のファイル形式がある。
「そこに映し出されているのは、多分、一番後ろの二枚かなと思うんですけど」
圭吾が指さしたのは、朱色の空に神々しく輝く夕日だ。
その手前は、藤棚の写真っぽい。樹上から濃淡様々な藤の花が咲き垂れる様は見事だ。
「何回も試しているんですけど、空間から消えないんですよね」
圭吾がしきりにマウスをカチカチしている。
確かに消えない。
なるほど、と思った。空間に浮かぶ透明レイヤーをパソコンの中から探したのなら、大変だったろう。
「んー、まぁ、出たまんまでも作業はできるけどな。統合すれば自然と消えるだろうし。けど、この二枚だけじゃないよなぁ、多分」
パソコンの右端に表示されているレイヤーは、少なくとも五枚ある。
メインになる写真が五枚、という意味なんだろう。
藤棚と夕日以外の三枚は、白紙レイヤーのままだ。
それ以外にも数枚のレイヤーがあるが、光や色味など細かい調整のための素材写真に見える。
きっと補正や装飾用のサブレイヤーだろう。
「残り三枚は、カメラの中に写真が残ったままなんじゃないか? 背景だけ取り急ぎ作った、とか?」
自分で言って、疑問に思った。
「これって、誰が作ったんだ?」
「わからないんです。浅沼先輩に聞いても、知らないって言われて。俺ではないから、去年までいた人ってことになるんですが」
「なら、機材一式を寄贈していった朝陽さん?」
「そうかもしれないけど、去年までは写真部って、部員がたくさんいたらしいので」
「言われてみれば、そうだな」
高校入学当時、朝陽の誘いを断った理由の一つが、部員の多さだった。
また変なやっかみをされるのが面倒だった。幼稚なやっかみは技術の足を引っ張る。作りたい3Dシネマトグラフが作れないのが、嫌だった。
(実際、先輩も面倒な目に遭っていたらしいし。あの人でも何かされるんなら、俺なんかもっと酷い目に遭う)
実力があって人望も厚く、頼もしい先輩として好かれていた榛葉朝陽でさえ、一部の部員からは嫉妬で作品を壊されていたと聞く。
(朝陽さんがいなくなって、そういう奴らが残るのかと思ったけど、逆に蜘蛛の子を散らすように辞めたな)
よく考えたら不思議だ。
カリスマがいなくなって、立派な機材だけ置いていってくれたのだから。好き勝手出来る環境が整っただろうに。

