「どっちも外れかぁ。あと二枚のレイヤーの場所、もう思い付かねぇなぁ。浅沼先輩は、何か思い当たる場所とか物とか、ありますか?」
ヒントがなさすぎる。
お手上げ状態だ。
「そういうのは、俺なりに全部、探したんだけどね」
浅沼が苦笑する。
さっきの態度といい、浅沼はどこか、見付からない現状に安心しているように見える。
(探すって言いながら、やっぱり向き合うのが怖いのかな。浅沼先輩の本音は、どっちなんだろう)
見付けたいのか、見付けたくないのか。
というより、俺にはまだ、浅沼が何かを隠しているように感じる。
だから、意を決して思い切ることにした。
「朝陽さんから直接、渡されているものとか、ありませんか?」
朝陽は隠したのではなく置いてきたと話した。
浅沼なら見付けられる場所に、置いてきた、と。
(つまり、既に浅沼先輩に渡している。本人に置いてきた説も、あり得るよな)
この仮説を浅沼に問うのは、最終手段だ。
俺的にもリスキーだが、仕方ない。
浅沼の顔が、ピクリと引き攣った。
「えっと、USBとか、ってこと? そういうの、俺、は……えっと……」
浅沼が、あからさまに顔を逸らした。
俯いて、言葉を詰まらせた。
ビンゴだと思った。
「浅沼先輩。俺たち、去年の写真部に何があったか、元部員から聞きました」
「遥先輩! その話は……」
圭吾が慌てた様子で割って入った。
「ここまで来て、隠す意味ねぇだろ」
止めようとする圭吾を、俺は逆に止めた。
「全部の事情を聞いたわけじゃないけど。少なくとも浅沼先輩は、朝陽さんのシネマトグラフと向き合わないと、先に進めないんじゃないですか? 浅沼先輩自身が、そう思ってますよね?」
面談の前に会った時、持っていた大学のパンフレットを思い返した。
(浅沼先輩は、朝陽さんがいるロサンゼルスを視野に入れて進学を考えているんだ。それが浅沼先輩の答えだ)
だから、ここで踏み切る決心ができた。
「この謎が解けないと、写真部も前に進めない。朝陽さんが残したものを守りたいから、浅沼先輩はたった一人で写真部に残ったんでしょ」
階段から落ちて大怪我をしても、部員が一人残らずいなくなっても、浅沼は写真部に残った。
それが浅沼の想いだ。
「だったら、先輩が知ってること全部、俺に教えてください。先輩に口を割らせる以上、俺が最後まで責任を持ちます」
浅沼が俺の顔を眺めて呆けた。
「それって、写真部に入ってくれるって解釈して、いいの?」
「それで、いいっす。ここまで首突っ込んだら俺にとっても、もう他人事じゃねぇもん」
少し前から、何となく考えていたけど。
田村から聞いた話も、後押しになった。
写真をやりたいのに、やれる環境があるのに、できないでいる奴がいる。
俺が動いて、その環境が変わるなら。
今は俺がやるしかないだろう。
これが、俺が切れる最後のカードで、最終手段だ。
(全部が終わった後、圭吾にどんな話をされたとしても、逃げないで続ける。写真部も放置できねぇって、思っちゃったから。そう決めた)
啖呵を切った俺を、隣にいる圭吾が驚いた顔で眺めていた。
「……なんだよ、その顔」
気まずくて、聞かずにはいられなかった。
「だって、遥先輩。あんなに嫌がっていたのに。俺が誘っても一ミリも動かなかったのに」
「うるせぇな。交換条件だっての! 浅沼先輩に無茶振りしてんだから、俺も自分が出せる最大のカード切るしかねぇだろ!」
「遥先輩の、そういうトコ。そういうトコ、格好良いです!」
圭吾がデカい図体で抱き付いた。
「うぜぇよ! 離れろ、大型犬!」
「先輩は小さいのに、大きい男です。男前です」
「それ、褒めてねぇよな? チビって言うな!」
「全力で褒めてます。あと、チビとは言ってない」
圭吾の頭をゲシゲシ押し退ける。
今日は中々離れない。
あんまり引っ付かれると、ドキドキするからやめてほしい。
「ふふ……はは。あー、もぅ……二人は本当に、仲良しだね」
浅沼が手で顔を覆って、小さく笑んだ。
「朝陽がいなくなって、木島も転校して、部員が辞めていって、気が付いたら一人になってた。本当はすごく不安で、どうしようって思っていたんだ。俺には写真部を潰す決心ができなくて、だらだら続けていただけだったから」
浅沼の声が泣きそうに震える。
本当に不安だったんだ。
「けど、四月に遠藤が入ってくれて、植野を引っ張って来てくれた。たったの一週間で、写真部の景色が見違えるほど変わったよ」
顔を上げた浅沼の目が、ほんの少し濡れていた。
「何があったか、全部、話すよ。二人に、俺と一緒に考えて、悩んでほしいんだ」
そう言った浅沼は、とてもスッキリした顔をしていた。
ヒントがなさすぎる。
お手上げ状態だ。
「そういうのは、俺なりに全部、探したんだけどね」
浅沼が苦笑する。
さっきの態度といい、浅沼はどこか、見付からない現状に安心しているように見える。
(探すって言いながら、やっぱり向き合うのが怖いのかな。浅沼先輩の本音は、どっちなんだろう)
見付けたいのか、見付けたくないのか。
というより、俺にはまだ、浅沼が何かを隠しているように感じる。
だから、意を決して思い切ることにした。
「朝陽さんから直接、渡されているものとか、ありませんか?」
朝陽は隠したのではなく置いてきたと話した。
浅沼なら見付けられる場所に、置いてきた、と。
(つまり、既に浅沼先輩に渡している。本人に置いてきた説も、あり得るよな)
この仮説を浅沼に問うのは、最終手段だ。
俺的にもリスキーだが、仕方ない。
浅沼の顔が、ピクリと引き攣った。
「えっと、USBとか、ってこと? そういうの、俺、は……えっと……」
浅沼が、あからさまに顔を逸らした。
俯いて、言葉を詰まらせた。
ビンゴだと思った。
「浅沼先輩。俺たち、去年の写真部に何があったか、元部員から聞きました」
「遥先輩! その話は……」
圭吾が慌てた様子で割って入った。
「ここまで来て、隠す意味ねぇだろ」
止めようとする圭吾を、俺は逆に止めた。
「全部の事情を聞いたわけじゃないけど。少なくとも浅沼先輩は、朝陽さんのシネマトグラフと向き合わないと、先に進めないんじゃないですか? 浅沼先輩自身が、そう思ってますよね?」
面談の前に会った時、持っていた大学のパンフレットを思い返した。
(浅沼先輩は、朝陽さんがいるロサンゼルスを視野に入れて進学を考えているんだ。それが浅沼先輩の答えだ)
だから、ここで踏み切る決心ができた。
「この謎が解けないと、写真部も前に進めない。朝陽さんが残したものを守りたいから、浅沼先輩はたった一人で写真部に残ったんでしょ」
階段から落ちて大怪我をしても、部員が一人残らずいなくなっても、浅沼は写真部に残った。
それが浅沼の想いだ。
「だったら、先輩が知ってること全部、俺に教えてください。先輩に口を割らせる以上、俺が最後まで責任を持ちます」
浅沼が俺の顔を眺めて呆けた。
「それって、写真部に入ってくれるって解釈して、いいの?」
「それで、いいっす。ここまで首突っ込んだら俺にとっても、もう他人事じゃねぇもん」
少し前から、何となく考えていたけど。
田村から聞いた話も、後押しになった。
写真をやりたいのに、やれる環境があるのに、できないでいる奴がいる。
俺が動いて、その環境が変わるなら。
今は俺がやるしかないだろう。
これが、俺が切れる最後のカードで、最終手段だ。
(全部が終わった後、圭吾にどんな話をされたとしても、逃げないで続ける。写真部も放置できねぇって、思っちゃったから。そう決めた)
啖呵を切った俺を、隣にいる圭吾が驚いた顔で眺めていた。
「……なんだよ、その顔」
気まずくて、聞かずにはいられなかった。
「だって、遥先輩。あんなに嫌がっていたのに。俺が誘っても一ミリも動かなかったのに」
「うるせぇな。交換条件だっての! 浅沼先輩に無茶振りしてんだから、俺も自分が出せる最大のカード切るしかねぇだろ!」
「遥先輩の、そういうトコ。そういうトコ、格好良いです!」
圭吾がデカい図体で抱き付いた。
「うぜぇよ! 離れろ、大型犬!」
「先輩は小さいのに、大きい男です。男前です」
「それ、褒めてねぇよな? チビって言うな!」
「全力で褒めてます。あと、チビとは言ってない」
圭吾の頭をゲシゲシ押し退ける。
今日は中々離れない。
あんまり引っ付かれると、ドキドキするからやめてほしい。
「ふふ……はは。あー、もぅ……二人は本当に、仲良しだね」
浅沼が手で顔を覆って、小さく笑んだ。
「朝陽がいなくなって、木島も転校して、部員が辞めていって、気が付いたら一人になってた。本当はすごく不安で、どうしようって思っていたんだ。俺には写真部を潰す決心ができなくて、だらだら続けていただけだったから」
浅沼の声が泣きそうに震える。
本当に不安だったんだ。
「けど、四月に遠藤が入ってくれて、植野を引っ張って来てくれた。たったの一週間で、写真部の景色が見違えるほど変わったよ」
顔を上げた浅沼の目が、ほんの少し濡れていた。
「何があったか、全部、話すよ。二人に、俺と一緒に考えて、悩んでほしいんだ」
そう言った浅沼は、とてもスッキリした顔をしていた。

