隣にいたい片想い ーシネマトグラフに残した想いー

 圭吾と部室に戻ると、既に浅沼がいた。
 二者面談が終わるほうが早かったらしい。

「場所を変えてイチャイチャしてたの? また俺に気を遣った?」
「だから、そういうんじゃねぇっす」

 浅沼は、どうあっても圭吾と俺をそういう関係にしたいらしい。

「この前は良い場所を教えていただき、ありがとうございました。今後も有効活用します」

 圭吾が律儀に浅沼に頭を下げている。

「屋上の踊り場? もしかして、あそこに行ってたの? 滅多に人、来ないでしょ。オバケ出るし、事故があった場所だから」
「やっぱオバケ出るんか⁉ だから、俺が聞かないほうが良い系とか言ったんだな」

 思わず叫んだ。

「植野って、オバケ苦手なの? じゃぁ、レイヤーのオバケ、怖かったでしょ? ごめんね」
「こわっ……こわくねぇっす」

 オバケとか信じてない。
 いるはずのないものだから、聞くとビクッとするだけだ。
 ビクビクする俺の隣で、圭吾が浅沼に問い掛けた。

「あの場所、事故もあったんですか?」
「男子生徒が転落して、骨折してるんだよ。だから、見付かると先生に注意されるよ」

 浅沼の答えに、ドキリとした。
 俺は、こっそり圭吾と目を合わせた。

「その事故って、いつくらいの話ですか?」
「去年の秋、九月くらいかな」

 間違いない。
 浅沼自身が怪我をした事故だ。
 あの場所で、浅沼は木島彬人と口論になり、突き落とされた。

「イチャイチャしても怪我しないように、気を付けてね。それより、何か見付かった?」

 浅沼の言葉に弾かれて、圭吾がパソコンに向かった。

「浅沼先輩に開けてほしいフォルダがあります」
「それと、USBも」

 俺はポケットに仕舞い込んでいたUSBを見せた。
 浅沼が、俺の手の中を凝視した。

「……その、USB……どこに、あった?」
「この机の引き出しの中に」
「あ……あぁ、そっか。写真部の共用のやつ、だね」

 浅沼の笑顔が明らかに、ぎこちない。
 心なしか声も震えている。
 かなりの違和感だ。

「じゃぁ、フォルダから開けようか」

 学内用クラウドの写真部のフォルダを開く。
 何枚かの素材と、完成したシネマトグラフがいくつか保存してあった。
 素材を一つずつ確認していく。

「素材はどれも加工してありますね。すぐにでもレイヤーとして使えそうです」
「完成版のバックアップって感じだけど。ちょっと加工が荒いなぁ」
「荒いですか?」

 俺は、気になった写真の下部を指さした。

「光の調整は他のレイヤーとの兼ね合いもあるし、重ねながら確認するから単体で綺麗である必要はねぇんだけど。ノイズ残すのは、どんな場合もNG。味になるとか言って、そのまま使う写真家もいるけど、重ねるレイヤーの枚数が増えるほど、他の写真の邪魔になって汚く映るんだ。どんなに小さくても、最初から消すか切り取りがベスト」
「なるほど。勉強になります」

 圭吾が感心している。
 根が真面目だから、こういう時は勤勉だ。

「朝陽さんは、こういう雑な加工はしないだろ。って考えると、このフォルダにはなさそうだな」

 どの写真も加工後だが、俺に言わせれば中途半端だ。
 パソコン内の加工されたレイヤーは、もっと荒くて雑だった。
 だから朝陽の加工じゃないと、すぐに判断できた。

「植野がそう感じるなら、きっとないね。高校生の加工技術なんて、植野には子供の遊びみたいに見えるだろ」
「俺も高校生っすよ」

 そんな反感をくらいそうなことは、思っても言わない。
 そこまで馬鹿じゃない。

「次は、USB開いてみようか」

 浅沼に促されて、俺はUSBをパソコンに差し込んだ。
 最初に暗証番号を求めるページが開いた。
 浅沼がキーを打ち込む。
 その指と顔が、躊躇っているように見える。
 エンターキーを押す浅沼の横顔が怯えているように、俺には見えた。

 浅沼の震える指が、エンターキーを押す。

「え? 空っぽ?」

 一つだけ作られたフォルダの中身は、空だった。

「写真部で共用で使ってたUSBだから、かな。部長じゃないと開けないロックをかけるようになって、使いづらくなっちゃってね。クラウドや個人のUSBを使う部員が、多かったんだよね。空っぽだとは、思わなかったけど」

 そう話す浅沼は、安堵しているように、俺には見えた。