隣にいたい片想い ーシネマトグラフに残した想いー

 3Dシネマトグラフ。
 シンプルにいうなら、立体写真だ。

 写真なのに平面じゃない。
 立体写真を全身でリアル体験できる、まさに幻想空間だ。

 子供の頃、父親の仕事場である写真館で初めて観た時、息を飲んだ。
 俺も綺麗なシネマトグラフを作ってみたい。

 それからは、シネマトグラフにのめり込んだ。
 父親に教わりながら、実際の機材を触らせてもらって。
 気が付いたら、同世代向けのコンクールで名前を呼ばれるようになっていた。

 一人のほうが自由に楽しくできるから、高校の部活でやる必要もないんだよな。

「今日は浅沼先輩が委員会で遅くなるそうなので、部室の鍵を借りてきます」

 圭吾が職員室に鍵を取りに行った。
 この隙に逃げようかとも思うけど。

(一度は承諾した以上、それはないよな。俺も、そこまで薄情じゃない)

 視聴覚室の隣の、写真部の部室の前でしゃがみこんだ。

(なんで、アイツはそこまで写真部にこだわるのかな。圭吾だって、中学の頃はバスケ部と掛け持ちだったじゃん)

 俺も圭吾も、人数が少なくて困っている写真部の助っ人部員でしかなかった。
 高校にもバスケ部はあるワケだから、一八八センチも身長がある圭吾なら、欲しがられるだろうに。

「お待たせしました、遥せんぱ……」
「よぉ! 遠藤!」

 こっちに手を振った圭吾に、後ろから声を掛けた男がいた。
 
「木島先輩、どぅも」

 圭吾が、気まずそうに頭を下げている。
 その理由は知れている。

「まだ写真部なんかやってんの? 廃部寸前なんだろ? いい加減、諦めてバスケ部こいよ」

 大変、真っ当なお誘いだ。
 俺だって、そう思う。
 特に木島は、俺や圭吾と同じ中学だ。
 バスケ部時代の圭吾の活躍も知っている。
 
「いえ、俺は遥先輩とシネマトグラフがやりたいので、バスケ部には入れません」

 圭吾が、きっぱりと断った。
 それじゃまるで、俺が写真部に入るみたいじゃないか、とは思うものの。
「遥先輩と」とか言われて、悪い気はしない。

「遥? あれ、植野いたんだ。チビすぎて気付かなかったわ。植野って写真部、入るの? 今更?」
「チビって言うな。入らねぇよ。ちょっと助っ人するだけ」

 バスケ部だから、木島はデカい。
 圭吾ほどじゃないが、一八〇近くあると思う。
 正直、羨ましい。

「ふぅん。また助っ人で入って、美味しいトコだけ持ってく感じ? 親父が有名人だと、狭い界隈じゃぁ有利だよな。名前が通ってると、賞とか取り易いだろ」
「は? 何が言いてぇの?」

 うっかり、低い声が出た。
 木島は同中だし同学年だから、俺の昔の噂も知ってるんだろう。

「悪い意味で言ってねぇよ。廃部寸前の写真部には最高の救世主だろ。ま、高校では陸上やる気ねぇみたいだし、写真に専念しとけば? どっちも成績残そうなんて、高校じゃそう巧いコトいかねぇぜ」

 木島のニヤケ面に、イラっとした。

「あぁ、そっか。中学ん時、俺が陸上でインハイ行って、写真部のコンクールでも優勝しちゃったから、嫉む奴多かったよなぁ。木島みたいに部外者でも、嫉妬すんだ?」

 悪ふざけの延長、ただの揶揄いだとわかってる。
 けど、ムカつくもんはムカつく。
 木島が顔色を変えたのを見て、ちょっと言い過ぎたと思った。

「インハイ、一回戦落ちだったろうが。良いとこ取りしてっから、中途半端になんだよ。真面目にやってる奴の足、引っ張んな!」

 前のめりになった木島の腕を、圭吾が掴んだ。

「遥先輩は、中途半端じゃありません。どっちも全力で頑張っていました。近くで見ていた俺が、よく知っています」

 デカい圭吾が、木島を上から睨みつける。
 愛想が良いって顔でもないから、睨まれたら怖い。

「悪口は止めてください。遥先輩を悪く言うなら、俺は絶対にバスケ部には入りません」

 木島が悔しそうに圭吾の腕を振り払った。

「そうかよ。だったら二人で、写真並べて遊んでろ」

 言い捨てると、どかどかと大股に木島が去って行った。

「遥先輩、すみません。嫌な思いをさせました」
「別に、圭吾のせいじゃねーし。あれくらい、普通にいるだろ。木島の言葉も間違ってねぇし、俺もちょっと煽り過ぎた」

 立ち上がった俺の肩を、圭吾ががっつり掴んだ。
 近すぎて圧が怖い。

「先輩は中途半端じゃないです。写真を作っている時の先輩も、陸上部で走ってる時の先輩も、どっちも格好良かったです」

 真っ直ぐに見詰められると、言葉が出てこない。
 圭吾の顔が近くて、勝手に胸が高鳴る。

「あぁ、そぅ……それは、どぅも」

 顔が熱くなっていく。
 きっと耳まで赤いから、見られたくない。
 咄嗟に顔を逸らした。

(圭吾に褒められると、何でこんなに嬉しいんだろうな……悔しい)

 答えなんか、わかりきっている。
 だけど。今でも好きだなんて、絶対に言えない。
 どうせ、圭吾は俺の気持ちに、気付きもしないんだろうけど。