朝陽と電話で話した次の日。
俺は真っ直ぐ部室に行った。
一番乗りしていた圭吾が案の定、困っていた。
「遥先輩、空間に浮かんでいた背景レイヤー二枚が、消えました」
「やっぱりかー」
パソコンからソフトを確認する。
レイヤーの統合は、保存せずに解いた。
フォルダに加工後の写真も残っている。
「これが、朝陽さんの仕掛けだったんだ」
「榛葉先輩の、ですか? 昨日、電話で話せたんですか?」
「うっかり時差、考えないで電話しちゃった。向こう多分、夜中だったと思う」
「やっちゃいましたね」
圭吾のダメ出しに軽くへこみながら、もう一枚のレイヤーを確認する。
「人物のレイヤーも、投影が消えてるよな。オバケ、いなそうだよな」
「それっぽい影は、電気を消しても見えませんでした」
「だよなぁ」
俺は、がっくりと項垂れた。
「レイヤーを一回でも統合したら、消える仕組みだったんだ。見付けた奴しか統合できないんだから、当然だ」
「え? じゃぁ、もう投影できないってことですか?」
「いや。画像処理してシネマトグラフに仕上げれば、何回でもプロジェクションできるけど。問題は、そこじゃなくて……」
「二人とも、今日も早いね」
にこやかに部室に入ってきた浅沼の姿を見付けて、俺は言葉を止めた。
「植野、何か困ってる? どうかした?」
心配そうに見つめられて、言葉に困る。
「えっと、空間の謎のレイヤーが……」
「んんん! ちょっと圭吾が腹痛いみたいなんで、保健室に行ってきます!」
圭吾の腕をむんずと掴んで、慌てて部室を出る。
「俺、腹痛みたいなんで、保健室行ってきます」
律儀にぺこりと頭を下げる圭吾に、浅沼が手を振った。
「行ってらっしゃい。イチャイチャしたい時は言ってくれたら、俺から席を外すのに」
「そういうのじゃないっす!」
遠くに聴こえた浅沼の盛大な勘違いを大声で否定した。
「俺はイチャイチャしたいですよ」
「お前が言うイチャイチャは、子犬と戯れる的な発想だろ」
前に小動物がどうとか言っていた気がする。
もしかしたら子犬より、もっと小さい兎とかハムスターとかそういう類かも知れないが。
今はどうでもいい。
「保健室は、先生がいるよな。どこか二人になれる場所、ねぇかな」
「やっぱりイチャイチャですか?」
圭吾が後ろから俺の体を抱きしめた。
身長差があり過ぎて、もはや拘束だ。
「デカいんだから、そういうのやめろって。洒落にならねぇよ」
「遥先輩が、二人きりとかいうから」
「昨日の朝陽さんとの電話の話、したいだけ! 浅沼先輩には聞かれたくねぇの!」
人の気も知らないで、口説き文句のような冗談はやめてほしい。
段々、腹が立ってきた。
「それなら、屋上に行きましょう」
「屋上、立ち入り禁止じゃん」
「その手前の踊り場なら、人がいませんから」
圭吾に手を引かれて歩き出す。
普通に手を握られているみたいで、不覚にもドキドキする。
(い、今更、こんなことで、ドキドキとか。ドキドキとかー!)
したくないのに、ちょっと嬉しい自分がムカつく。
とても複雑な気分だ。
温もりとか、俺の手なんか包み込むくらい大きな手とかに見惚れていたら、いつの間にか踊り場にいた。
「ここなら、滅多に人が来ませんよ。はい、どうぞ」
ぽんぽんと隣に座るよう、手で促された。
「何でお前は一年のくせに、こんな場所を知ってんの?」
不審な眼差しを向ける。
「浅沼先輩が、イチャイチャしたくなったら、ここがいいって。曰くがあるから人が寄り付かない場所だそうです」
「浅沼先輩、悪い先輩だ。曰くって、何だよ」
「遥先輩は聞かないほうが良い系の話です」
「じゃ、聞かない」
絶対、怪談系の話だ。
オバケの話は聞きたくない。
聞いたら、ここにいられない。
今だって、施錠されている屋上のドアがカタンとか鳴るたびに、ビクビクする。
ちょっとだけ、圭吾の制服のジャケットを握り締めた。
「で、どんな話だったんです?」
圭吾が、そろっと俺の肩を抱いた。
普段なら離せって怒るところだが、今だけ許す。
「えっと、纏めるとだな……」
一先ず、朝陽との電話の話を搔い摘んで話した。
圭吾はいつもの如く、淡々とした顔で俺の話を聞いていた。
「隠していない……見付けてほしい人に見付けてもらうために置いてきただけ、ですか。確かに、狡いですね」
圭吾が、朝陽の想いを、にべもなくクラッシュした。
そうかもしれないけど、俺には気持ちがわかるから、否定的な言葉は言えない。
「俺たちが、先に画像を統合して中途半端なシネマトグラフを作っちゃっただろ。だから、部室の痕跡が消えたんだ」
パソコンを起動したときに現れる、謎の透明な背景とオバケ。
あれは朝陽が浅沼に見付けさせるための仕掛けだった。
「でもそれ、問題ない気がします。背景レイヤーの存在を浅沼先輩は知っています。人物レイヤーは、部室でオバケを見たことないって言い切っていたから、気が付いていないかもですけど」
そういえば、そうだった。
部室のオバケの話を、浅沼は鼻で笑っていた。
「いや、問題だろ。一番マズいのは、レイヤーが置いてある意図に浅沼先輩が気が付いてないのに、俺たちが消しちゃったってコトだろ」
あれが朝陽の告白だと、浅沼が気付く前に勝手に回収してしまった。
しかも、朝陽が見付けてほしい人じゃない俺たちが消したのが、マズい。
圭吾が、黙ったまま考える顔をした。
俺は真っ直ぐ部室に行った。
一番乗りしていた圭吾が案の定、困っていた。
「遥先輩、空間に浮かんでいた背景レイヤー二枚が、消えました」
「やっぱりかー」
パソコンからソフトを確認する。
レイヤーの統合は、保存せずに解いた。
フォルダに加工後の写真も残っている。
「これが、朝陽さんの仕掛けだったんだ」
「榛葉先輩の、ですか? 昨日、電話で話せたんですか?」
「うっかり時差、考えないで電話しちゃった。向こう多分、夜中だったと思う」
「やっちゃいましたね」
圭吾のダメ出しに軽くへこみながら、もう一枚のレイヤーを確認する。
「人物のレイヤーも、投影が消えてるよな。オバケ、いなそうだよな」
「それっぽい影は、電気を消しても見えませんでした」
「だよなぁ」
俺は、がっくりと項垂れた。
「レイヤーを一回でも統合したら、消える仕組みだったんだ。見付けた奴しか統合できないんだから、当然だ」
「え? じゃぁ、もう投影できないってことですか?」
「いや。画像処理してシネマトグラフに仕上げれば、何回でもプロジェクションできるけど。問題は、そこじゃなくて……」
「二人とも、今日も早いね」
にこやかに部室に入ってきた浅沼の姿を見付けて、俺は言葉を止めた。
「植野、何か困ってる? どうかした?」
心配そうに見つめられて、言葉に困る。
「えっと、空間の謎のレイヤーが……」
「んんん! ちょっと圭吾が腹痛いみたいなんで、保健室に行ってきます!」
圭吾の腕をむんずと掴んで、慌てて部室を出る。
「俺、腹痛みたいなんで、保健室行ってきます」
律儀にぺこりと頭を下げる圭吾に、浅沼が手を振った。
「行ってらっしゃい。イチャイチャしたい時は言ってくれたら、俺から席を外すのに」
「そういうのじゃないっす!」
遠くに聴こえた浅沼の盛大な勘違いを大声で否定した。
「俺はイチャイチャしたいですよ」
「お前が言うイチャイチャは、子犬と戯れる的な発想だろ」
前に小動物がどうとか言っていた気がする。
もしかしたら子犬より、もっと小さい兎とかハムスターとかそういう類かも知れないが。
今はどうでもいい。
「保健室は、先生がいるよな。どこか二人になれる場所、ねぇかな」
「やっぱりイチャイチャですか?」
圭吾が後ろから俺の体を抱きしめた。
身長差があり過ぎて、もはや拘束だ。
「デカいんだから、そういうのやめろって。洒落にならねぇよ」
「遥先輩が、二人きりとかいうから」
「昨日の朝陽さんとの電話の話、したいだけ! 浅沼先輩には聞かれたくねぇの!」
人の気も知らないで、口説き文句のような冗談はやめてほしい。
段々、腹が立ってきた。
「それなら、屋上に行きましょう」
「屋上、立ち入り禁止じゃん」
「その手前の踊り場なら、人がいませんから」
圭吾に手を引かれて歩き出す。
普通に手を握られているみたいで、不覚にもドキドキする。
(い、今更、こんなことで、ドキドキとか。ドキドキとかー!)
したくないのに、ちょっと嬉しい自分がムカつく。
とても複雑な気分だ。
温もりとか、俺の手なんか包み込むくらい大きな手とかに見惚れていたら、いつの間にか踊り場にいた。
「ここなら、滅多に人が来ませんよ。はい、どうぞ」
ぽんぽんと隣に座るよう、手で促された。
「何でお前は一年のくせに、こんな場所を知ってんの?」
不審な眼差しを向ける。
「浅沼先輩が、イチャイチャしたくなったら、ここがいいって。曰くがあるから人が寄り付かない場所だそうです」
「浅沼先輩、悪い先輩だ。曰くって、何だよ」
「遥先輩は聞かないほうが良い系の話です」
「じゃ、聞かない」
絶対、怪談系の話だ。
オバケの話は聞きたくない。
聞いたら、ここにいられない。
今だって、施錠されている屋上のドアがカタンとか鳴るたびに、ビクビクする。
ちょっとだけ、圭吾の制服のジャケットを握り締めた。
「で、どんな話だったんです?」
圭吾が、そろっと俺の肩を抱いた。
普段なら離せって怒るところだが、今だけ許す。
「えっと、纏めるとだな……」
一先ず、朝陽との電話の話を搔い摘んで話した。
圭吾はいつもの如く、淡々とした顔で俺の話を聞いていた。
「隠していない……見付けてほしい人に見付けてもらうために置いてきただけ、ですか。確かに、狡いですね」
圭吾が、朝陽の想いを、にべもなくクラッシュした。
そうかもしれないけど、俺には気持ちがわかるから、否定的な言葉は言えない。
「俺たちが、先に画像を統合して中途半端なシネマトグラフを作っちゃっただろ。だから、部室の痕跡が消えたんだ」
パソコンを起動したときに現れる、謎の透明な背景とオバケ。
あれは朝陽が浅沼に見付けさせるための仕掛けだった。
「でもそれ、問題ない気がします。背景レイヤーの存在を浅沼先輩は知っています。人物レイヤーは、部室でオバケを見たことないって言い切っていたから、気が付いていないかもですけど」
そういえば、そうだった。
部室のオバケの話を、浅沼は鼻で笑っていた。
「いや、問題だろ。一番マズいのは、レイヤーが置いてある意図に浅沼先輩が気が付いてないのに、俺たちが消しちゃったってコトだろ」
あれが朝陽の告白だと、浅沼が気付く前に勝手に回収してしまった。
しかも、朝陽が見付けてほしい人じゃない俺たちが消したのが、マズい。
圭吾が、黙ったまま考える顔をした。

