「これが朝陽さんのシネマトグラフだとしたら、浅沼先輩が知らないのは、不自然だよな」
フォルダについて質問した時、浅沼は「覚えがない」と答えた。
しかし、A2はきっと朝陽が写真やレイヤー保存に使っていたフォルダだ。チームを組んでいた浅沼が、知らないはずはない。
「俺が聞いた時も、知らないと言われました。だから、オバケの正体が浅沼先輩の写真だと気が付いた時も、話しませんでした」
「浅沼先輩、何かを隠しているよな」
「俺も、そう思うんです。だから、全部を相談はできないと思いました」
それで俺に声を掛けてきたのかと、納得した。
この状況じゃ、圭吾一人で解決は難しい。
「だからお前、昨日はオバケの詳細、何も言わなかったんだな」
オバケの話は昨日もしたが、あの場には浅沼がいた。
「今日は、たまたま浅沼先輩がいないから、話せるかなと思って。ちょうど良くオバケも出てくれたので、良かったです」
むすっとして、圭吾の額にデコピンした。
さっきの出来事を思い出したから、仕返しだ。
「そうなると、残りの二枚って浅沼先輩が持ってる率、高くないか?」
「そうですかね。俺は持ってないと思います」
「なんで?」
首を傾げたら、待ち構えていた圭吾の指でほっぺを突かれた。
デコピンの仕返しのつもりか。満足そうにしてる顔が、ムカつく。
「浅沼先輩、何かを隠しているっぽいけど、俺たちに協力的じゃないですか? 今日もカメラからパソコンまで準備してくれてたし。遥先輩の仮入部の手続きも終わってたし。まるで、俺たちに見付けてほしい、って言ってるみたいに見えます」
「そういわれると、そう見えなくもない、のか?」
「だから、残り二枚は浅沼先輩も、どこにあるのか、わからないんじゃないかと思うんです」
何も知らない振りをしながら写真を探す浅沼の真意は、わからないが。
そういうの関係なく、ここまで出来上がったら、あと二枚を見付けたくなる。
「んー、だとしても、俺たちにだって、わからねぇよな。ヒントがなさすぎる」
「ヒント……、ですか。確かにパソコンのフォルダにもカメラにも、写真は山ほど残ってますけど」
「カメラは除外して、いいかもな。ここまでの傾向から考えると、写真は既にシネグラ用に加工してある可能性が高い。フォルダ内のどこかに、あるかも」
「だとしたら……」
圭吾が投影された3Dシネマトグラフを眺めた。
「遥先輩なら、あの写真にあと二枚、何を足しますか?」
「あのシネマトグラフに、か。俺だったら、足元に何か足すかな」
あの3Dシネマトグラフのメインレイヤーは間違いなく、浅沼涼貴だ。
(浅沼先輩を更に美しく引き立たせるための、サブメインのレイヤー。今だと、何でもハマりそうな……)
光を当てて神々しさを演出して、リアルと嘘の境界を演出する。
そのための、残り二枚。
「藤棚……。そういえば、どうして藤の花なんだろう」
確かに藤棚は美しいが、あの神々しい写真に添えるには、些か地味にも感じる。
「違和感があるのは、ピースが足りないからか。それとも、別の意図があるのかな」
圭吾が、さっとスマホを取り出して、何か調べ始めた。
「藤の花の開花は、四月下旬から五月上旬。花言葉は、優しさ、歓迎、恋に酔う、だそうです。関係あるか、わかりませんけど」
「恋に酔う。歓迎……。五月か。そういえば、夕日の感じ、光量強くないか?」
「夕日ですか? 加工してるから?」
「それはきっと、神々しさの演出かなって思うけど。夕日の元の写真、あるか?」
「確か、フォルダに残ってた気がします。カメラにも写真があったと思います」
圭吾が、夕日のレイヤーの、元の写真を拡大してくれた。
「この空の感じ。黄金の夕日だ」
「黄金の夕日、ですか?」
「主に秋から冬の、湿気が少ない時期の夕暮れだよ。夕焼けって夏の季語なんだけどさ、夏場は湿気が多い分、赤みが強い光になる。ホラ、こんな感じ」
スマホで検索した、夏の夕暮れの画像を圭吾に見せる。
茜と表現するに相応しい、真っ赤な空の写真だ。
「本当だ。雲まで真っ赤ですね」
「でも秋から冬は空気が澄んで、オレンジや黄色なんかの光の色が錯乱されずに届くから、ホラ、こんな感じ」
冬の夕暮れの画像を開いて、圭吾に見せる。
パソコンのレイヤーと見比べる。光り輝く金色の空の様子が似ている。
「同じ夕焼けでも、光の色が全然違うんですね。まさに黄金です。このレイヤーに近いですね」
「だろ? このレイヤーに使われてる写真って、きっと空気が乾燥してる秋から冬の夕日なんだ。金色が強いから、より乾燥してる冬かな」
「だとしたら、五月に咲く藤と併せたのって、どうしてなんでしょう? 単純に綺麗だから?」
「それなー。んー」
朝陽が作ったと考えると、綺麗ってだけではない気がする。
浅沼へのメッセージだとしたら、尚更何か意味がありそうだ。
フォルダについて質問した時、浅沼は「覚えがない」と答えた。
しかし、A2はきっと朝陽が写真やレイヤー保存に使っていたフォルダだ。チームを組んでいた浅沼が、知らないはずはない。
「俺が聞いた時も、知らないと言われました。だから、オバケの正体が浅沼先輩の写真だと気が付いた時も、話しませんでした」
「浅沼先輩、何かを隠しているよな」
「俺も、そう思うんです。だから、全部を相談はできないと思いました」
それで俺に声を掛けてきたのかと、納得した。
この状況じゃ、圭吾一人で解決は難しい。
「だからお前、昨日はオバケの詳細、何も言わなかったんだな」
オバケの話は昨日もしたが、あの場には浅沼がいた。
「今日は、たまたま浅沼先輩がいないから、話せるかなと思って。ちょうど良くオバケも出てくれたので、良かったです」
むすっとして、圭吾の額にデコピンした。
さっきの出来事を思い出したから、仕返しだ。
「そうなると、残りの二枚って浅沼先輩が持ってる率、高くないか?」
「そうですかね。俺は持ってないと思います」
「なんで?」
首を傾げたら、待ち構えていた圭吾の指でほっぺを突かれた。
デコピンの仕返しのつもりか。満足そうにしてる顔が、ムカつく。
「浅沼先輩、何かを隠しているっぽいけど、俺たちに協力的じゃないですか? 今日もカメラからパソコンまで準備してくれてたし。遥先輩の仮入部の手続きも終わってたし。まるで、俺たちに見付けてほしい、って言ってるみたいに見えます」
「そういわれると、そう見えなくもない、のか?」
「だから、残り二枚は浅沼先輩も、どこにあるのか、わからないんじゃないかと思うんです」
何も知らない振りをしながら写真を探す浅沼の真意は、わからないが。
そういうの関係なく、ここまで出来上がったら、あと二枚を見付けたくなる。
「んー、だとしても、俺たちにだって、わからねぇよな。ヒントがなさすぎる」
「ヒント……、ですか。確かにパソコンのフォルダにもカメラにも、写真は山ほど残ってますけど」
「カメラは除外して、いいかもな。ここまでの傾向から考えると、写真は既にシネグラ用に加工してある可能性が高い。フォルダ内のどこかに、あるかも」
「だとしたら……」
圭吾が投影された3Dシネマトグラフを眺めた。
「遥先輩なら、あの写真にあと二枚、何を足しますか?」
「あのシネマトグラフに、か。俺だったら、足元に何か足すかな」
あの3Dシネマトグラフのメインレイヤーは間違いなく、浅沼涼貴だ。
(浅沼先輩を更に美しく引き立たせるための、サブメインのレイヤー。今だと、何でもハマりそうな……)
光を当てて神々しさを演出して、リアルと嘘の境界を演出する。
そのための、残り二枚。
「藤棚……。そういえば、どうして藤の花なんだろう」
確かに藤棚は美しいが、あの神々しい写真に添えるには、些か地味にも感じる。
「違和感があるのは、ピースが足りないからか。それとも、別の意図があるのかな」
圭吾が、さっとスマホを取り出して、何か調べ始めた。
「藤の花の開花は、四月下旬から五月上旬。花言葉は、優しさ、歓迎、恋に酔う、だそうです。関係あるか、わかりませんけど」
「恋に酔う。歓迎……。五月か。そういえば、夕日の感じ、光量強くないか?」
「夕日ですか? 加工してるから?」
「それはきっと、神々しさの演出かなって思うけど。夕日の元の写真、あるか?」
「確か、フォルダに残ってた気がします。カメラにも写真があったと思います」
圭吾が、夕日のレイヤーの、元の写真を拡大してくれた。
「この空の感じ。黄金の夕日だ」
「黄金の夕日、ですか?」
「主に秋から冬の、湿気が少ない時期の夕暮れだよ。夕焼けって夏の季語なんだけどさ、夏場は湿気が多い分、赤みが強い光になる。ホラ、こんな感じ」
スマホで検索した、夏の夕暮れの画像を圭吾に見せる。
茜と表現するに相応しい、真っ赤な空の写真だ。
「本当だ。雲まで真っ赤ですね」
「でも秋から冬は空気が澄んで、オレンジや黄色なんかの光の色が錯乱されずに届くから、ホラ、こんな感じ」
冬の夕暮れの画像を開いて、圭吾に見せる。
パソコンのレイヤーと見比べる。光り輝く金色の空の様子が似ている。
「同じ夕焼けでも、光の色が全然違うんですね。まさに黄金です。このレイヤーに近いですね」
「だろ? このレイヤーに使われてる写真って、きっと空気が乾燥してる秋から冬の夕日なんだ。金色が強いから、より乾燥してる冬かな」
「だとしたら、五月に咲く藤と併せたのって、どうしてなんでしょう? 単純に綺麗だから?」
「それなー。んー」
朝陽が作ったと考えると、綺麗ってだけではない気がする。
浅沼へのメッセージだとしたら、尚更何か意味がありそうだ。

